(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年4月8日付)

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が訪米し関税についてもトランプ大統領と議論した(4月7日、写真:ロイター/アフロ)

 マフィア映画は世界の文化に対する米国の最大の貢献の一つだ。

 世界中の人が「ゴッドファーザー」のテーマ曲を口ずさんだり、「グッドフェローズ」や「ザ・ソプラノズ」のセリフを繰り返したりすることができる。

 だが、マフィアの手法がホワイトハウスのオーバルオフィス(大統領執務室)に持ち込まれるのを見ると、やはり驚かされる。

 貿易と外交に対するドナルド・トランプのアプローチには、はっきりそれと分かるドン・コルリオーネの雰囲気がある。

真の力とは「恐怖」と考えるマフィアのボス

 映画に登場するマフィアのボスのように、トランプは脅しと度量の大きさを切り替える術を知っている。

 敬意をもって接すれば、トランプの自宅に招かれ、彼の家族と交流できるかもしれない。

 だが、脅威は決して消えることがない。

 トランプがかつて著名ジャーナリストのボブ・ウッドワードに説明したように、「真の力とは、その言葉を使いたくもないが、恐怖だ」というのだ。

 オーバルオフィスに戻ってきたトランプは、米国有数の一流法律事務所とアイビーリーグと称される名門私立大学をゆする戦術として恐怖と脅しを使った。

 専門職階級に属する立派なメンバーらしく、トランプの標的は突然マフィアに脅されると、不快なことがすぐ消え去ることを期待して言われるままにカネを払った。

 ポール・ワイスやスキャデン・アープスのような法律事務所は、トランプの大統領令の標的にされることを避けるために、政権の仕事を無償で引き受けることに同意した。

国際貿易体制の再編は法律事務所をゆするほど簡単ではない

 だが、トランプが仕掛けた関税戦争は、世界経済に対するマフィアのボス的アプローチの弱点をあらわにしている。

 トランプの想定は、米国の貿易相手国に十分強烈なパンチを食らわせば、相手はディールに応じるしか選択肢がなくなる、というもののようだった。

 息子のエリック・トランプは標的にされた国々に対し、常識をわきまえ、すぐに父親を買収するよう呼びかけた。

「自分なら@realDonaldTrumpと貿易協定について交渉しようとする最後の国になりたくない」と書いた。

「最初に交渉した人が勝ち、最後の人は絶対に負ける」と続け、「自分は生まれてこの方ずっと、この映画を見てきた」と締めくくった。

 だが、現実世界と世界経済は、エリック・トランプが見て育った映画よりもはるかに複雑だった。

 ホワイトハウスはすべての主要貿易相手国と同時に貿易戦争を開始した。世界有数の多国籍企業の多くのサプライチェーンにも大ナタを振るった。

 トランプのマフィアのボス的戦術が奏功するには、関係する役者がとにかく多すぎる。

 持ち株の売却に走り、株式市場の急落を招いた大勢の投資家がいる。

 トランプが設けた条件の下では、とにかく事業が成り立たず、そのため生産ラインを閉鎖している製造業者が多々ある。

 そして、中国国家主席の習近平のマフィアについて言えば、脅しに屈するどころか逆に撃ち返すことにした。

 事態は大変な修羅場となりつつある。