(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年4月12・13日付)

果たして米国民はトランプ大統領が作り出した痛みを我慢してくれるのか(写真はエアフォースワン上で4月13日、写真:ロイター/アフロ)

 2000年前のローマの詩人デキムス・ユニウス・ユウェナリスは、当時の政治現象を「パンとサーカス」と評して非難した。

 西暦100年のローマ帝国は多額の債務と所得格差に押しつぶされていた(どこかで聞いたような話ではないか)。

 そのため当時の皇帝たちは、反抗的な人々を無料の「パン(短期の賄賂)」と、剣奴が闘技場で闘う「サーカス」で懐柔しようとした。

 これは人々の目をそらそうとする試みであり、構造改革の必要性は無視された。これが今再び起きているのではないだろうか。

ローマ皇帝のパンとサーカス式の政策綱領

 2カ月前にはそう思えた。

 昨今のワシントンの指導者たちはローマ帝国の皇帝たちと同様に、36兆ドルに上る米国の債務などの構造問題に手をつけようとしてこなかった。

 ドナルド・トランプは「パンとサーカス」式の政策綱領を掲げて第47代大統領――そして現代の皇帝――の座を目指した。

 特にトランプは減税、インフレ解消、新たな雇用の創出を公約する一方で、有権者の関心をそらす娯楽を際限なく提供し続けた。

 ジャーナリストのナオミ・クラインが指摘したように、あの芝居がかった政治スタイルは、かつてトランプが関わっていたワールド・レスリング・エンターテインメント(WWE)のネットワーク――21世紀の闘技場だ――からの借りものに見える。

 だが、今日の関税による戦いは、その「パンとサーカス」式の政策綱領をむしろ「明日のジャム」(決して実現されない約束のこと)に似たものに変えつつある。

 確かに、ホワイトハウスは今でも、目をそらすためのドラマを有権者への贈り物とともに提供し続けている。

 減税のパッケージ、1人当たり5000ドルと噂される政府効率化省(DOGE)還付金小切手(政府のリストラで浮いた資金を国民に直接還元しようというアイデア)、そして石炭産業を復活させる新たな公約(トランプの支持基盤にとっては重要な約束だ)などがその贈り物に当たる。

「経済革命」の名の下に国民に痛み

 しかし、それ以上に衝撃的なのは、ホワイトハウスがトランプの自称「経済革命」の名の下に、国民に痛みを負わせていることだ。

 チーム・トランプは、関税を利用して米国経済の自給自足度を高めたり再工業化に向かわせたりすれば、長期的に素晴らしい経済が形作られると説いている。

 市場が大荒れになっても、そして4月9日にほとんどの関税が90日間「停止」されても、この主張を変えていない。

 ただ、ホワイトハウスはごく当たり前のことも認めている。

 エール大学予算研究所によれば米国の平均関税率は27%という1903年以来の高水準に達しているため、(少なくとも)短期的にはショックが引き起こされるとの予測がそれだ。

 またトランプのアドバイザーたちはウォール街に対し、とにかく困難を受け入れよと命じているように見える。

 財務長官のスコット・ベッセントは先日、銀行経営者らに向かって「今後4年間、トランプ政権は(金融界を意味するウォール・ストリートではなく)メーン・ストリート、すなわち実業界に焦点を当てていく」と告げた。

 米国株の時価総額が最初に6兆ドル失われた時にホワイトハウスが関税政策の変更に向けてすぐに動かなかったのは、そのためだ。

 ようやく腰を上げたのは、米10年物国債利回りが4.5%に急上昇した後だった(どうやらこの4.5%が「プット」、すなわちベッセントが超えたくないと考える水準に近いようだ)。