メーン・ストリートへの打撃
そして他国への関税が「停止」されているにもかかわらず、米中貿易戦争が深刻化するにつれ、副大統領のJ・D・バンスはメーン・ストリートにも打撃が及ぶと認めるようになっている。
米国は中国の「安価な労働力」という「ドラッグ」の使用をやめなければならない、たとえそれで米国の消費者が安価な製品を入手しづらくなったり景気後退を招いたりすることになってもだ、と主張する。
したがって、米国の関税は有権者と金融業界に「おとり商法」を同じように仕掛けた形になっている。
トランプは昨年、米国経済を「再び偉大に」すると公約した。
だが、今では長期的な利益のために短期の「過渡的」な痛みを甘受しなければならないと説いている。
トランプのポピュリストとしての記録を踏まえるなら、これは予想外であると同時にかなり皮肉な話だ。
果たして米国民はこれを受け入れるのだろうか。
トランプに批判的な人の多くは受け入れないと考えているか、そう期待している。
中国との貿易戦争による経済的な痛みがフルに感じられるようになったら、MAGA(米国を再び偉大に)運動の支持者が反旗を翻し、トランプ政権に方針転換を強いると予想している。
犠牲を共有する日本などとは違うワケ
もしかしたら、そうかもしれない。
米国の文化は、日本のようなところとはかなり異なる。日本には痛みを広く分かち合う仕組みがあり、社会的な一体感がある。
共同犠牲などの概念が社会に埋め込まれている。
片や米国では、痛みを受け入れよと有権者に告げることは政治的自殺行為だとする見方が一般的だ。犠牲になることは流行らない。
だが、MAGA運動による正真正銘の反乱が起きているようには見えない。それとも、まだ起きていないと言うべきなのか。
確かに、警鐘を鳴らす共和党政治家は増えている。
だが、直近の世論調査10件の結果をニューズウィーク誌がまとめたところによれば、トランプの支持率の平均値は3月初めの49%から下がっているものの、まだ47%ある。災難でも何でもない水準だ。
これはタイムラグで説明がつくのかもしれない。
JPモルガンのような企業が警告しているように、景気後退に見舞われたら変化が出てくる可能性がある。
あるいは、MAGA運動の支持者の多くはすでに脱工業化で破壊されているコミュニティーに住んでおり、現状を打破することの方に前向きだという事実を反映しているのかもしれない。
メーン・ストリートの住民すべてが金融市場の暴落を気にするわけではないことをエリート層は忘れがちだ。
米国民の39%は株式を持っていないのだ。
文化的な実験の行方は?
いずれにせよ、最大のポイントは、トランプによる関税戦争を受けて、単なる経済実験のみならず非常に興味深い文化実験も始まっているということだ。
米国の大衆は痛みに対してどんな態度を見せるのか。逆境は共有されるのか。
米中貿易戦争が長引けば長引くほど、これらの実験の重みも増していくことになる。市場が乱高下するのも無理はない。
(文中敬称略)