(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年10月2日付)

米FRBのジュローム・パウエル議長(7月31日、FRBのサイトより)

 金融政策の緩和サイクルが始まっている。

 多くの人は、果たして金利はどこまで下がるのか、この金利低下は景気にとって何を意味する可能性があるのかと疑問を抱いている。

 しかし筆者は、もっと長期的な疑問の方に興味をそそられている。正確に言えば、疑問は3つある。

 第1に、長期にわたって下がり続けて極端に低い水準に達した実質金利はついに底を打ち、持続性のある上昇に転じたのか。

 第2に、株式市場のバリュエーションは平均回帰するのが普通だと長い間思われていた米国においてさえ、平均回帰をやめたのか。

 そして最後に、第1の疑問の答えが第2の疑問の答えに何らかの影響を及ぼす可能性があるのかどうかだ。

英米両国に見る実質金利の低下

 第1の疑問については、非常に有用な情報がすでにある。

 英国の実質金利についてはインフレ連動国債10年物のデータから、過去40年弱の実質金利を直接推計できる。

 米国についてもインフレ連動国債(TIPS)から同様な情報が得られるが、こちらは2003年以降のデータしかない。

 2002年から2013年まで、両者はよく似た動きを見せた。それ以降は英国の実質金利の方が米国のそれよりも目に見えて低下している。

 この現象は英国の確定給付年金制度の規制で説明できるに違いない。

 この規制により、年金制度は非常に低い実質金利で政府に資金を提供せざるを得なくなっているからだ。

 おかげで英国経済は大きなコストを負担させられている。

 英国の実質金利は1992年9月が山で、そこから2021年12月の谷まで8ポイント超低下した。

 米国では、金融危機が始まった直後の2008年11月の山とパンデミック後の2021年12月における谷との間に4ポイント超低下している。

 ここでは2つのことが起こっていた。

 一つは実質金利の長期的な低下であり、もう一つは、世界金融危機と新型コロナのパンデミックが引き金となった実質金利の急低下だ。

 長期的な低下の方はグローバル化の影響、特に中国の巨大な貯蓄余剰を大きく反映しているに違いない。

 しかし、実質金利は最近上昇していると言っても、金融危機以前の水準にはまだ戻っていない。

 今の米国の実質金利は1.5%という穏当な水準だ。

 セントルイス連銀による推計(推計方法は本稿とは異なる)によれば、1990年代の米国の実質金利は2%を超えていた。