天候不良、高齢化、燃料費・人件費の高騰…課題は山のように

 カニは食堂などが生簀で育てているカニを有志で持ち寄ったもので、大きさ、性別、卵の有無などを調べたうえで、カニの足に調査用の番号札をつけ駿河湾に放流する。そしてこれらが再度捕獲された時に通知を受け、再捕されるまでの期間や場所などを記録している。これまでに2300尾近くを放流し、再捕は50尾、およそ2%にとどまっている再捕率をどう上げるかが課題になっている。

 こうしたなか、水口さんはこの放流の時に、卵を持っているカニは引き続き飼育し、孵化させ、稚ガニにしてから放流する方が駿河湾の資源増加につながるのではないかと考えているのだ。

 もちろん稚ガニに育て上げるまでには専門的な知見や専用の装置などが不可欠で、個人レベルでの実現は難しい。

 そこで期待がかかるのが国や県などの取り組みだ。実際、静岡県も以前に、タカアシガニの種苗生産、放流を目指し、栽培漁業センター(当時)が幼生期・稚ガニ期の飼育方法の研究開発を4年かけて行った。しかし、それから20年以上が経ち、現在は行われていない。

 果たして今シーズンのタカアシガニ漁はどうなるのか。

 トロール漁が始まって半月、今のところ漁師たちの顔は明るくない。彼らを悩ませる要因は、海水温の上昇以外にも、天候不良、高齢化、燃料費・人件費の高騰など山のようにある。

 この小さな町、戸田で起きていることは特殊な事象ではなく、日本全国至る所で起きている共通課題であろう。食料自給率の向上が叫ばれる中、今一度、日本の一次産業を見直し、漁業従事者、地元民、大学研究者、行政などが一体となった包括的・長期的な取り組みを早急に実施すべきだ。