(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
泉房穂氏が、自身のYouTubeチャンネルで、兵庫県の出直し選挙で再選された斎藤元彦知事に、謝罪をしている。
謝罪の理由はこうである。
「(わたしは斎藤知事を)一面的な見方で厳しく批判をしてきたが、改めて知事としてがんばれ、という民意が明らかとなりました。この間、斎藤氏に問題ありという形で報道が続いてきており、わたしはその論調に乗って、先頭をきって厳しく批判してきた。大いに反省もし、直接お詫びを申し上げたいところであります」
泉氏はこの前にも、フジテレビの「Mr.サンデー」で謝罪したという。
しかしそういうことでいえば、わたしもテレビ報道で斎藤知事の「所業」を見て、いやいや、ろくでもない男だなと思った口である。
最後のほうは、ここまで叩かれても能面ヅラで粘る男ははじめてだな、いったいどんな心臓をしてるんだ、とすこし感心したりもした。
テレビは闇雲な謝罪の要求ばかり
けれどわれわれは、「メディアリテラシーを高めよ」と生意気なことをいうものもいるが、テレビ報道で赤子の手をひねるように簡単に騙されるのだ。
ほとんどの国民が、なんだこの男は、ずうずうしい奴だ、と思ったはずである。
泉氏はその批判をテレビでやったことがまずかったわけであり、謝罪をする事態にいたったのだが、潔い謝罪である。
ただ、われわれがふだんテレビで目にする謝罪は、世間から叩かれてしぶしぶする謝罪ばかりである。その意味で、泉氏の率直な自発的謝罪はまれなものである。
それにしても、いまや斎藤知事は一転してヒーロー扱いである。それもまたどうかと思うけど。
謝罪が有効なのは、原状回復できるものについてだけである。
しかしここ10年くらいのテレビの風潮は、闇雲な謝罪の要求ばかりである。「犯人からまだ謝罪の言葉は聞かれません」や「一回謝っとこうか」であり、「謝罪する気はありませんか?」である。
この影響はどうかは知らないが、謝罪を要求するのに、土下座を強要するバカがあちこちで出現する始末である。そういう人間が信じられないし、理解できない。