第2次大戦中から半世紀にわたり「もし戦争になったら」を発行
2024年11月18日、スウェーデン政府内の民間緊急事態庁(MSB)が全32ページ・21項目からなる「In case of crisis or war」(危機や戦争に備えて)という冊子を発行した。これはいわゆる「戦争対応マニュアル」で、全国民約1047万人(2021年国連調べ)はもちろん、全在留外国人までも対象に12月初めまでに配布予定だという。Webからデジタル版のダウンロードも可能だ。
11月5日(現地時間)に行われた米大統領選でトランプ前大統領が再選。ロシア・ウクライナ戦争に関して、これ以上のウクライナ支援に消極的なトランプ氏が返り咲いたことで、ロシアのプーチン大統領は次にNATO諸国にも侵略の手を伸ばすのでは? との危機感が広がっている。
くしくも冊子発行の3日後、ロシアは新型の極超音速中距離弾道ミサイル(IRBM)でウクライナを攻撃。欧米や日本の主要メディアは大きく報じた。
IRBMの実戦使用はこれが初で、今回は通常弾頭だったが複数の核弾頭を搭載できる多弾頭ミサイル(MRV)だけに、2024年3月にNATO(北大西洋条約機構)入りを果たしたスウェーデンも「いつロシアと全面戦争になってもおかしくない」と覚悟しているのかもしれない。
約200年武装中立を堅持したスウェーデンは、国防への政府・国民の意識が極めて強く、「Om kriget kommer(スウェーデン語)/もし戦争になったら」と題した同種の手引書を、第2次大戦中の1943年から冷戦終焉直後の1991年まで、約半世紀の間何度も改訂しながら発行し続けた。
その後、欧州ではデタント(緊張緩和)による軍縮が加速。スウェーデンも例外ではなく、徴兵制や兵員の大動員を支えるための強大な予備役の維持などを廃止した。
だが、ロシアによる2014年のウクライナ領クリミア半島侵略や、2018年のジョージア(旧グルジア)侵攻が勃発すると軍縮政策を転換。2018年に徴兵制と「もし戦争になったら」の発行を復活させた。
今回は2018年版の改訂で、テロや情報戦を織り交ぜたハイブリッド戦や、国防に対する一般国民の役割の重要性、NATO加盟のメリットを強調した内容が補足されている。さらに、核攻撃への対処方法を盛り込むなど“実戦的”な内容が目を引く。
>>【写真全13枚】空襲警報の緊急サイレン音や退避場所のレベルチェック・シートなど事細かに記されている「戦争対応マニュアル」の全て