米国のトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)
目次

[ロンドン発]第2次トランプ米政権の国家防衛戦略(NDS)で「核の傘」がどう変わるか、米外交官として日韓に駐在、不拡散担当国務次官補代理も務めた英有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のアソシエイトフェロー、マーク・フィッツパトリック氏(米在住)に訊いた。

米国の新国防戦略で防衛の優先順位が下げられた「朝鮮半島」

――第2次トランプ政権が初のNDSを公表しましたが、核抑止に関しては特に米国の同盟国への影響という点で不透明な箇所がいくつかあります。同盟国は新しいNDSの下で米国の「核の傘」*1政策に根本的な変化があると予想すべきでしょうか。

マーク・フィッツパトリック氏(以下、フィッツパトリック) 新しいNDSは拡大抑止については多くを語っていませんが、行間を読むことは可能です。この文書が米本土と西半球の防衛を強調していることは同盟国の防衛の優先順位を下げることを意味しています。

マーク・フィッツパトリック氏

 欧州と韓国は敵対国に対する抑止においてより大きな役割を担うよう求められています。同盟国に対する核の傘は維持されています。しかし、その価値は潜在的な敵対国の目から見たクレディビリティー(信頼性)にかかっています。

 NDSの孤立主義的なトーンはそのクレディビリティーを弱めます。トランプ政権は同盟国への脅威を米国への脅威と同等とは見なしていません。

*1 核の傘が効力を保つためには攻撃を仕掛けようとする国(潜在的な敵対国)が「日本や韓国を攻撃したら、米国は自らの犠牲を払ってでも核で報復してくるだろう」と100%信じている必要がある。もし敵対国が「トランプ政権は『米国第一』だし、遠い国のことだから、口では守ると言っていても実際には核兵器までは使わないだろう」と見透かしてしまったら、その瞬間に「核の傘」は綻びる。

――核戦力と通常戦力を組み合わせた「拡大抑止」が以前の枠組みと比較して縮小すると予想されますか。 

フィッツパトリック ある意味ではNDSは攻勢能力と防御力の強化を求めており、拡大抑止を補強しています。「第一列島線」に沿った「拒否ベースの防衛」を約束することは、事実上、統合抑止*2を強化することを意味します。

 しかし、この地理的な焦点からは朝鮮半島が除外されています。朝鮮半島はこれまで核と通常戦力の両方による拡大抑止が最も重要視されてきた場所です。

 チーム・トランプは1950年1月の演説で米国の防衛ラインの定義に韓国を含めなかったディーン・アチソン元国務長官の過ち*3を繰り返しているのではないかと危惧しています。その5カ月後、金日成の軍隊が侵攻しました。

*2 統合抑止は核、通常兵器、サイバー攻撃、経済制裁など、あらゆる手段を組み合わせて「攻撃しても得なことは何一つない」と思わせる戦略。

*3 1950年1月、当時のディーン・アチソン米国務長官は米ワシントンのプレスクラブで、米国が責任を持って守るべき防衛線をアリューシャン列島から日本を通ってフィリピンを結ぶ線(アチソン・ライン)であると定義した。この線の中に朝鮮半島(韓国)と台湾は含まれていなかった。この演説は「世紀の失言」と呼ばれる。北朝鮮やソ連に対し「米国は韓国で戦争が起きても直接、軍事介入してこない」という誤ったシグナルを送った。外交ではあえて「やるかやらないか曖昧にする」ことで相手を抑制できることもある。わずか5カ月後、北朝鮮軍が南侵し、朝鮮戦争が勃発する。