表紙に描かれた「国産小銃を構えた女性兵士」の意味

 マニュアルの表紙はどこに置いても目立つように黄色一色で、掲載した挿絵からは同国の主張が読み取れる。

スウェーデン民間緊急事態庁(MSB)が緊急発行した戦争対応マニュアル「危機や戦争に備えて」のスウェーデン語版スウェーデン民間緊急事態庁(MSB)が緊急発行した戦争対応マニュアル「危機や戦争に備えて」のスウェーデン語版(写真:MSB Facebookより)

 表紙の中央に描かれる兵士はボフォースAk5自動小銃を構え、背後にはサーブ39グリペン多用途戦闘機、ステルス護衛艦「ヴィスビュー」級という具合に国産兵器をあしらい、スウェーデンの軍事技術の優秀さを内外にアピールしている。

 また小銃を携える兵士は女性で、その後ろにはアフリカ系らしき男児に絵本を読み聞かせる男性を配置。「国防は今や男性の専売特許ではない」とのメッセージなのか、ジェンダーと多様性の先進国を自負するスウェーデンらしい表紙である。事実2018年の徴兵制復活では、新たに女性全員も対象とした。

徴兵制を再開したスウェーデン国民皆兵体制を長年続けてきたスウェーデンは、冷戦終結を受け2010年に徴兵制を中止したものの、ロシアのクリミア半島侵略により2018年に再開。男女問わず18歳以上の健常人全員が対象(写真:スウェーデン軍サイトより)

 マニュアルは「危機または戦争」への対応と題しているが、日本のように地震、台風、線状降水帯が頻発するような風土ではなく、あくまでも戦争対応が主眼であることは明らかだ。この点、黄色表紙をゆるキャラ「防サイくん」で飾る、東京都の災害対応マニュアル「東京防災」とは似て非なるもので、お国柄の違いが如実に表れている。

「はじめに」の部分では、「To all residents of Sweden」(スウェーデンに住む全ての人へ」との大見出しから始まるが、同国の国籍を持つ「国民」だけが対象ではない。多様性や人権に敏感な国情と、域内の往来が自由なEU(欧州連合)の加盟国である点をにじませる。

 冒頭ではマニュアル作成の意義を説いている。実際に起きている武力紛争が「我々の一角」、すなわち名指しこそ避けるがウクライナ戦争でのロシアの傍若無人ぶりを念頭に置いていることは明らかだ。そして、戦争の脅威に対抗するため国民は団結すべきだと訴え、いざスウェーデンが攻撃された時は「独立と民主主義を守るため各人の役割を果たすべき」と強調する。

 同時に愛する人々や同僚、友人、隣人と協力し、レジリエンス(攻撃を受けたダメージからの回復力)の構築が必要だと説明。「あなたはスウェーデン全体の緊急事態即応力の一部だ」と言い切る。