NATO脱退を示唆するトランプ氏をラグビーのモットーでけん制?

 マニュアルの【項目1】は「不確実の時代に備えを」。戦争が「自由への究極の脅威」と断言している。軍事的暴力が使われれば、自由で独立した我々の生活の権利が脅かされると指摘。すでに一部ではサイバー攻撃やフェイク情報、テロ、破壊工作などの非対称戦も行なわれていると警鐘を鳴らす。

【項目2】の「力を合わせればスウェーデンは強くなる」では、レジリエンス強化のため、各人が最低1週間は自力で生活できる備えをすべきと説く。

 合わせて集団的な備えに対する貢献も要請し、具体的には総合防衛システム(TDS:軍事防衛と民間防衛とを統合させた独特な機構)の枠組みの下、さまざまな任務をこなす各種民間防衛組織への参加や、心臓蘇生法(CPR)講習の受講、献血への参加などが有効だという。

スウェーデン独自の総合防衛システム(TDS)が2018年に再開され、国防軍と民間とが密接に連携。侵略に対し徹底抗戦の構えスウェーデン独自の総合防衛システム(TDS)が2018年に再開され、国防軍と民間とが密接に連携。侵略に対し徹底抗戦の構えだ(写真:MSB Facebookより)

【項目3】の「スウェーデンの防衛」では「軍事防衛」「民間防衛」の二段構えからなるTDSが特徴だとする。混迷の末に正式加盟したNATOの集団防衛への参画を重要視するが、これはまだ中立国だった「2018年版」にはなかった内容だ。

 民間防衛の重要性についても多くのスペースを割き、国内在住の全ての人々と政府機関、地方自治体、市町村、民間企業、非営利組織(NPO)が協力すべきとする。

 さらに民間防衛の重要任務として2点を掲げる。1つ目は軍事防衛、つまり自国軍やNATO軍のサポート。もう1つは戦時中でも可能な限り住民を保護し、エネルギーや医療、交通機関など重要な公共サービスを維持するとしている。

 そして、今回特に強調しているのが、【項目3】で挙げる「スウェーデンとNATO」だろう。

「加盟国全体が共同で強力な防衛体制を築き、他国からの攻撃を阻止することがこの軍事同盟の目的」とあえて念押しし、ラグビーのポリシーとして名高い「All for one, One for all」(1人は皆のために、皆は1人のために)を引き合いに、その重要性をわざわざ強調している点が意味深長だ。

 対GDP比2%の国防費増額義務を果たさない一部NATO加盟国に対し、仮にロシアが攻撃しても「むしろ好き放題にするようにけしかける」とうそぶいたり、NATOからの脱退を示唆したりするトランプ氏を、やんわりといさめているのかもしれない。