自民党の新総裁に選出された石破茂氏(9月27日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 2024年9月23日付け東京新聞は、「自民党総裁選挙と立憲民主党代表選挙の立候補者13人への本紙の政策アンケートでは、在日米軍の特権的な地位を認める日米地位協定の全般的な見直し交渉について、自民で『する』と答えた候補はゼロだった。立民は4候補のうち3人が『する』と答えた」とする記事を報道した。記事の詳細は後述する。

 また、2024年9月25日に放映されたフジテレビの報道番組の中で、自民党総裁選挙候補者が地位協定の改正について所信を述べていた。各候補者の発言内容は後述する。

 上記の新聞報道やテレビ放映を見ていると、大変僭越であるが、筆者は総理大臣の地位を狙う国会議員も地位協定改定問題の本質がよく分かっていないという印象を持った。

 一つは、日米地位協定は1960年の締結以来一度も改定されていない。

 なぜなら、日米地位協定改定の議論は、一歩間違うと在日米軍の撤退につながるリスクがあるからである。

 日本政府も米国政府も在日米軍を維持したいと思っている。

 やはりというか予想通りの反応が返ってきた。自民党総裁選で勝利した石破茂新総裁に対し、米政府は石破氏の日米地位協定の見直し発言に対して警戒感を示した。霞が関も同様であろう。

 もう一つは、日米地位協定を外国軍受入国の視点でしか見ていないことである。

 日本はすでに海外に自衛隊を派遣している。自衛隊は国際的には軍隊である。従って、軍隊派遣国としての視点を持つべきである。

 一般的には、外国軍の駐留に伴う様々な法的問題を解決するために、名称のいかんを問わず、外国軍の法的地位を規定する地位協定(SOFA:Status of Forces Agreement)が軍隊派遣国と外国軍受入国との間で締結される。

 そして通常、駐留外国軍隊には、軍隊の性質から国際法上原則として受入国の法令の適用はないものとされている。

 その例として、日本が外国に自衛隊を派遣したケースを見てみる。

 カンボジアPKO(平和維持活動)の場合は、国連軍地位協定モデル案が適用された。

 それによれば、「国連平和維持活動の軍事部門の軍事構成員は、[受入国・地域]で犯すことのあるすべての犯罪について、兵員派遣国の専属管轄に属する」。

 すなわち、PKO軍要員がPKO公務内だけでなく、PKO公務外での犯罪行為を行ったとしても、彼らへの刑事管轄権はPKO受入国ではなく、派遣国が専属的に行使できるのである。

 ちなみに、カンボジア派遣の自衛隊員による交通事故3件が発生し、軍隊派遣国の日本がそれぞれ関係者の処分をしている。

 ちなみに米国をはじめ多くの国には軍事裁判制度が整備されており、海外においても軍事裁判が開催されている。

 また、日本と外国との二国間交渉に基づくジブチ派遣の場合は、「ジブチ共和国における日本国の自衛隊等の地位に関する日本国政府とジブチ共和国政府との間の交換公文」が締結された。

 それによれば、部隊隊員は「1961年4月18日の外交関係に関するウィーン条約」の関連規定に基づいて事務および技術職員に与えられる特権および免除と同様の特権および免除をジブチ共和国政府により与えられている。

 上記のようにカンボジアやジブチに派遣された自衛隊員は、日本に駐留している米軍よりも多くの特権を与えられていることになる。

 また、地位協定は自国民を保護するために締結するものである。

 全く仮定の話であるが、中国に自衛隊を派遣した場合、自衛隊員が中国で犯罪行為を行った場合に、その裁判権が日中のどちらにあるかは自衛隊員にとって死活問題である。

 日米地位協定の改定に関する筆者の意見は、まずは日米安保条約を双務性に改正して、米国と対等な立場になって米国民の信頼を得てから、地位協定の改定を持ち出すべきである。

 それまでの間は、補足協定の締結(現在は、環境補足協定と軍属補足協定が締結されている)や日米合同委員会合意などの日米両政府による調整に基づく運用の改善で対応するべきであると考える。

 ところで、日本では「イタリアとドイツは地位協定が改定できて、なぜ日本はできないのか」とよく言われる。

 後述するが石破氏もそのように発言している。

 沖縄県が「他国地位協定調査について(中間報告書概要)」をホームページ上に公開している。

 この報告書によれば、ドイツは1959年に締結された「ボン補足協定」が1971年、1981年および1993年に改定されている。

 イタリアについては1995年に、「了解覚書(モデル実務取極)」が締結されている。

 また、条文比較(警察権)では、「日米地位協定とNATO(北大西洋条約機構)軍地位協定の本文は、ほぼ同様の規定になっているが、合意議事録(日本)、補足協定(ドイツ)、モデル実務取極(イタリア)の規定により、それぞれの受入国の権限が大きく異なっている」と記載されている。

 以上のことから、イタリアもドイツも地位協定は改定していない。改定しているのは補足協定と了解覚書である。

 もし、補足協定等を含んで地位協定というならば、日本も地位協定を改定していると言える。

 以下、初めに自民党総裁選挙候補者および立憲民主党代表選挙候補者の日米地位協定の見直しに関する考え方について述べ、次に日米地位協定の概要と主権免除について述べる。

 次に.日米地位協定とNATO軍地位協定の比較について述べ、最後に日米地位協定の改定が難しい理由について述べる。