自民党の臨時総務会であいさつする石破茂総裁=9月30日午後、東京・永田町の党本部(写真:共同通信社)自民党の臨時総務会であいさつする石破茂総裁=9月30日午後、東京・永田町の党本部(写真:共同通信社)
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(河野克俊:元統合幕僚長)

「アジア版NATO」構想は短絡的

 9月27日、石破茂元幹事長が第28代自民党総裁に選出され、10月1日召集される臨時国会で第102代内閣総理大臣に指名される。

 石破総裁は、防衛庁長官、防衛大臣を歴任され、政界において自他ともに認める安全保障の専門家であるが、その石破新総裁が提唱されている2つの安全保障政策に焦点を絞って、私なりの評価を述べてみたい。

 第一は、「アジア版NATO」の創設である。

 これは総裁選期間中にも提唱され、9月27日の米国ハドソン研究所の「コメンタリー」にも寄稿されている構想である。

 その中で、「『ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)に加盟していないから防衛義務を負わない』『ウクライナはNATOに入っていない。だからアメリカは、軍事力行使はしない』それがアメリカの理屈であった」として、「今のウクライナは明日のアジア。ロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換えれば、アジアにNATOのような集団的自衛体制が存在しないため、相互防衛の義務がないため戦争が勃発しやすい状態にある。このような状況で中国を西側同盟国が抑止するためにはアジア版NATOの創設が不可欠である」としている。

 しかし、このような論理展開はあまりに性急であり、いささか短絡的と言わざるを得ない。1990年8月にイラクのサダム・フセイン大統領が隣国のクウェートに侵略して湾岸危機が勃発した。

 その際、当時の米国のブッシュ大統領(父)はイラクに警告を発するとともに、イラクに対する武力行使を容認する国連決議を成立させた。その後、間髪を入れず多国籍軍を編成し、翌年1月には湾岸戦争が開始され、1カ月でイラク軍をクウェートから放逐した。

 当時米国とクウェートの間には安全保障上の取り決めはなかったが、ブッシュ大統領は、このような侵略行為を放置すれば冷戦後の国際秩序は地に落ちるとして、湾岸戦争に踏み切ったのである。

 つまり、要はアメリカの国益に照らした当時の政策判断の結果なのであって、集団的自衛体制の有無のみが自動的に安全保障の決定的要因になるとは言えないということだ。

 したがって、日本の場合、日米同盟が厳然と存在しているのであるから、その信頼性を高めることが急務であって、それを飛び越えてアジア版NATOに飛びつくのは論理の飛躍であると思う。