現行制度で史上最多の9人が立候補した自民党総裁選は決選投票の末、元幹事長の石破茂氏が激戦を制して当選しました。10月1日に召集される臨時国会で第102代首相に選出される見込みです。今回は「派閥なき総裁選」と言われましたが、最終盤には派閥がやはり隠然たる存在感を発揮しました。結党以来、「解消」を何度も宣言し、結局は残り続けてきた自民党の派閥政治。その問題点をやさしく解説します。
(西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)
解散したはずの「派閥」の力が総裁選を左右
今回の総裁選では第1回投票で過半数を得た候補がなく、国会議員票と党員票の合計が181票の高市氏と154票の石破氏が決選投票に進みました。ところが決戦投票では石破氏が逆転。215票対194票で石破氏が当選したのです。
いったい、何が起きたのでしょう。
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注目すべきは国会議員票です。第1回投票では高市氏が72票、石破氏が46票で差が開いていました。これが決戦投票になると石破氏が189票に跳ね上がり、高市氏の173票を上回りました。第1回投票と決戦投票を比べると、高市氏が101票増やしたのに対し、石破氏は143票を積み上げて高市氏を追い越したのです。
つまり、第1回投票で敗退した候補に投票した国会議員の多くが、決選投票では石破氏を選んだということです。
総裁選終盤には、すでに解散したはずの派も含め派閥の動きが活発になっていました。麻生派会長の麻生太郎副総裁は、投票の前日に高市氏支持を決め、高市氏に投票するよう派のメンバーに指示したといいます。報道機関などによると、国会議員の動向調査で高市氏は石破氏と競り合っていましたが、高市氏が第1回投票で石破氏を引き離したのは、麻生派の支援があったためと見られます。
麻生派の高市氏支持に危機感を抱いたのが岸田文雄首相です。
外交重視の岸田氏は、高市氏のタカ派的政策が中国や韓国との関係を悪化させないか心配しました。岸田氏は、林芳正官房長官を支援する旧岸田派メンバーと情勢分析を重ねていましたが、決戦投票では高市氏を支持しない方針を派内に伝えました。結果的に40数人規模の旧岸田派が結束して石破氏を支持したことが勝敗の分岐点になりました。解散したはずの旧岸田派=宏池会がその力を見せつけたのです。
小泉進次郎元環境相の陣営の後ろ盾となった菅義偉元首相は、派閥の長ではありません。しかし、中堅・若手には「決選投票ではまとまった行動を取るよう」促していたと報道されています。第1回投票で国会議員票が最も多かったのは75票の小泉氏。決選投票では、その議員票の多くは菅氏と近い石破氏に流れた模様です。
裏金問題の中心となった旧安倍派は、決戦投票で高市氏支持に動きました。解散を決めたものの政策集団として活動する余地を残した旧茂木派も、決戦投票では高市氏支持の動きを見せていました。ところが、結局はまとまり切れず、双方の議員票の一部は「選挙の顔」として期待できる石破氏に流れたようです。