9月20日、松江市での演説会終了後、互いに手を取り合う自民党総裁選の候補者たち(写真:共同通信社)
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(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)

 自民党の総裁選の投開票が3日後に迫っています。今回の総裁選の特徴は、なんといっても候補者が9人も出ていることでしょう。立候補には推薦人20人が必須という現行のルールになってから最多です。

 この現象を世間は好意的に受け止めているようです。

「脱派閥」のお陰で9人も候補者が

 今までの自民党総裁選は派閥の論理の影響が非常に大きかったわけです。自民党の派閥というのは基本的にはそのトップを総理総裁にするための集団です。ですから自分の派閥の領袖、あるいはそれに代わる人物を候補者として擁立するのが原則ですが、状況に応じ、派閥の親分が「今回はこっちだ」と言えば他派閥の候補を一致団結して推すということもありました。大半の議員が何らかの派閥に属していたことを踏まえれば、派閥の親分たちの意向で事前に総裁選の大枠は固まっているのが常でした。

 すなわち総理総裁が確定した際の大臣ポスト等の分け前を得るべく、事前の調整が鍵となるので、派閥内や派閥間でのやりとりが盛んに行われ、大体2~3のグループの対決となることが見えていたため、泡沫候補を入れても、多くて4~5人の立候補が常で、候補者が9人も出るなどということはあり得なかったのです。

 今回これほどの数の候補者が出たのは岸田総理が示した「派閥解散」という方針の影響が大きいことは否めません。麻生派は残っていますが、今回の総裁選に関しては、派閥としての一致団結した動きという感じはなく(派閥候補として所属する河野太郎氏を親分たる麻生氏の号令で皆で推す、という感じでもなく)、他の派閥は基本的に解散したか政策グループへ衣替えしたため、旧同派閥から複数の候補者が出るというケースが複数でました(茂木氏と加藤氏、林氏と上川氏)。

 同じ派閥から総裁選に複数人が立候補するというのはこれまでの常識だとかなりのレアケースですし、あちらの派閥からも2人、こちらの派閥からも2人、という状況は基本的にはあり得ない事態です。

 しかし派閥のくびきがなくなったおかげで、20人の推薦人が集められれば、若手でもベテランでも、男性でも女性でも自由に立候補できるようになった。そして今回、9人もの候補者が出て議論を交わしている。これは一見、とても素晴らしいことだと言えます。自民党も変わってきていると世間もこの点については好意的に受け止めているように見えます。