“大人の政党”の子ども化は避けるべき

 もっとも、自民党の“大人の知恵”は派閥の存在だけではありませんでした。一見バラバラでも、政権を担って運営していく人たちという責任政党として、まとまるときにはまとまるのが自民党でした。

 たとえばTPP参加の是非について議論が割れたときの対応が典型です。ほとんどの自民党議員は選挙区に農村部を抱えているのでTPPに反対を表明せざるを得ない状態でした。

 もともとTPPは民主党政権時代からのテーマでしたが、民主党はガチンコで議論しちゃう気風が強かったため、当時官僚だった私の周りでは、「霞が関は“縦割り”だが、民主党は“俺割り”(個人ごとにバラバラ)だな」と言われたりしていた次第です。民主党は理屈や議論だけで物事を決めようとする傾向があり、賛成派と反対派がまったく折り合わず、結論を出せませんでした。よく言えば公明正大なのですが、悪く言えば「ものごとがまとまらない党」で、その意味では子どもっぽい政党でした。

 それに対し、政権交代を果たした自民党は、TPPの論議でも「まぁまぁ、それぞれわかった、いろんな意見があるのはわかった。ずいぶん議論も尽くしたことだし、あとは執行部に一任しようや」という“一任”というキラーワードの下で、ひとつの結論を出していったのです。ただ正論をぶつけ合うだけでなく、ものごとを前に進めていこうという“大人の政党”らしい振る舞いでした。議論以上に、実際の運営、ということを大事にしていたのです。

 今回の総裁選に話を戻すと、多くの候補者が出て盛り上がるのは良いことなのですが、候補者同士でのガチンコの戦争になり、大人の振る舞いを忘れてしまうと、選挙が終わった後に大変なことになりかねません。ある政治家は、「自民党の民主党化」ということを言っていましたが、その懸念は十分にあると思います。選挙は戦争といっても、正々堂々とした議論にとどめてもらって、誹謗中傷合戦や水面下での足の蹴り合いなどは控え、総裁選が終わったら本当にノーサイドということで、誰が総裁になっても政治をしっかり前に進めてほしいと願います。