盛り上がっている総裁選だが、選挙に関するルールは紳士協定で、罰則などは特に定められていない(写真:共同通信社)盛り上がっている総裁選だが、選挙に関するルールは紳士協定で、罰則などは特に定められていない(写真:共同通信社)

(山本一郎:財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員)

 自由民主党総裁選も終盤。まだ、高市早苗陣営が多くの党員に送付したリーフレットの是非で揉めております。「また面倒くさいことを起こしやがって」って感じですね。

 民主主義と選挙は一体の関係にあり、公職選挙では公平性と透明性が強く求められる一方、自由民主党の総裁選は何でもあり。仁義なき戦いになってしまっている面があります。

 そもそも、今回は「カネのかからない総裁選にしましょう」という方針があらかじめ決められていました。それというのも全国108万の自民党員さんに対し、まともにリーフレットなど封書を送るとざっくり1億円の費用がかかります。候補者9名おられるわけですから、全員が送れば10億円弱も費用がかかる。何かしようとすると、カネがかかっちゃうんですよね、選挙って。

 さらに、後述する地元の地方議員や推薦人・陣営詰めの議員などが個別の政治活動の一環として「今回総裁選に出馬された、だれだれ先生を応援しています」と支持者に送る封書も含めれば、なんだかんだ資金的にもかなりの一大イベントになってしまいます。

 なので、あくまで総裁選において党が主催したり、メディア手配で実施したりする討論会やメディア対応ほかのロジスティクスや資金は挙党的に丸抱えするから、公平に政策論を打ち、討論会を通して誰が自由民主党の総裁に相応しいか議論してよ、という紳士協定のようなルールにならざるを得ません。

 自民党もある面では私党に極めて近い存在であり、選挙互助会的な側面もあります。また、総裁選に関わるルールはあくまで紳士協定ですから、破ったら罰則とか特に決められていません。

 さらに、総裁選を巡っては「党が行った党員向け調査の結果」とかいう謎の文書が実際に回覧され、乗せられたジャーナリスト氏がうっかりnoteにガッツリ書いてしまって騒ぎになっていました。ガセネタの情報元は、党組織にお勤めなのに現場であまり見かけたことのない自称選挙の神様ではないかと確からしい噂まで出ていました。なんで同じ組織の中なのに百鬼夜行になっているんでしょう……。

 こうなると、もうやったもん勝ち、出し抜いても問題なし、出し抜かれたほうが悪いっていう状況になるのは仕方がないのです。

 なぜかって? あなた、自由民主党にそこまで公平性や透明性を求めるんですか。自民党ですよ?

 ただ、自民党国会議員でも地方議員でも、またおカネちゃんと払って投票権を得ている自民党の党員の皆さんも、心あるちゃんとした人たちは少なくなく、政治とカネの問題では本当に怒っている自民党員さんも非常に多いのです。

 なんせ、自民党員さんは投票権を得るのに年4000円の党費を2年間払わなければなりません。地元有力者が党員確保のためにやむを得ず他人の名義で党員にする場合を除き、自腹を切って党費を払っている皆さんは、投票率も高いかなりちゃんとした政治関心層なのです。

 だからこそ、自民党の党としての支持率はカネの問題が発覚してから大きく下落しています。いま少し戻しているものの道半ばでしかありません。

 日本政治や自民党への信頼を取り戻そうと頑張っている候補者も多いなかで、自由民主党総裁選の選挙管理委員長である逢沢一郎さんが、党員向けに多数のリーフレットを送付した冒頭の高市早苗陣営に対して注意をしています。

 それも、「選挙の正当性を棄損しかねない」と強めのトーンで言わないといけない立場なのはよく分かりますけれども……。しかし、おそらく総裁選の投票箱が開くまでは、ペナルティも処分もされないことでしょう。

「選挙の正当性棄損しかねない」総裁選候補の文書郵送など巡り、逢沢管理委員長の声明全文(産経新聞)