雑な運営の総裁選を勝ち抜いた人が国のリーダーになる悲劇

 また、今回総裁選ではあまり争点になりませんが、自由民主党と同じく新代表の石井啓一さんを迎える公明党との連立政権をどのような形で維持していくつもりなのかは非常に重要なポイントになり得ます。

 新総裁を迎えたご祝儀的な世情を期待して早期の解散総選挙を望む声は多くなるでしょうが、公明党との協力が自民党の生命線であることに変わりはなく、そこを誤認している自民党支持者が「公明党などいなくても単独で政権維持できる」と根拠のない強硬論を唱える向きも多いのです。

 逆に、高市早苗さんと総裁選での決選投票に進むとみられる石破茂さんに高市早苗さんが負けた場合、この処遇をうまく考えないと党が割れてしまう恐れもわずかながらあるのではないかと怖れています。

 そもそも論で言うならば、高市早苗さんの推薦人に裏金議員(政治資金収入の報告書未記載)が複数いる上に、総裁戦後に今回の党員さんへのリーフレット送付で何らかの追加処分があれば、そこで高市早苗さんがブチ切れることだって容易に想像できます。あまり好ましくない未来絵図で、ないと思いますし、そう願っていますが……。

 蛇足ながら、公職選挙ではない組織に過ぎない自民党の公平性や透明性を担保するためには、どうしてもオンライン選挙にシフトしていかざるを得ません。また、党員さんの民意をしっかり組み上げていくためには、決選投票でも党員さんの投票結果をタイムリーに反映させる仕組みに制度を変えていかなければなりません。

 ここで重要なのは、そんな雑な運営で紳士協定に頼る自民党総裁選が、実は、実質的に日本のトップである総理大臣を決定する選挙だということです。

 党員名簿の管理も選挙制度もクソ適当だけど、その結果として選ばれた人が国のリーダーになり宰相を決めるという仕組みになっている現状、相応に厳密な仕組みへと党改革をしていくことが党への信頼回復の一里塚になるということは論を俟ちません。

 裏を返せば、108万党員さんの投票動向が、1億2000万日本人の行く末を担っていることでもあり、ちゃんとルール決めて罰則も設けて総裁選やろうよという気持ちになるのは私だけではないと思うんですけどね。

山本 一郎(やまもと・いちろう)
個人投資家、作家
1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し、『ネットビジネスの終わり(Voice select)』『情報革命バブルの崩壊 (文春新書)』『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』など著書多数。
Twitter:@Ichiro_leadoff
ネットビジネスの終わり』(Voice select)
情報革命バブルの崩壊』 (文春新書)
ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』(文藝春秋)