(朴 車運:韓国ジャーナリスト)
韓国人にとって「戒厳」という言葉は、過去の軍事独裁時代の恐怖と抑圧を思い出させる。
運がいいのか、筆者はこれまでに3回の大統領弾劾と1回の非常戒厳を経験することができた。もちろん、良い経験ではない。その後、韓国は民主国家として発展し、先進国の仲間入りを果たしたが、依然として政治状況は不安定で、党派間の争いとイデオロギー対立が続いている。
12月3日夜10時27分。放送を通じて非常戒厳を宣布した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、国家転覆を試みる従北勢力と、社会不安を引き起こす偽ニュースの清算などをその理由に挙げた。
理由はもっともらしく、これまでの韓国の政治状況や「与小野大(日本の「ねじれ国会」の訳語)」の政局の流れを見れば、ある程度、妥当性があるとも言える。
文在寅政権以降(文在寅氏も朴槿恵元大統領の弾劾後、大統領に就任した)、韓国は社会不安がますます激しくなり、高い物価、少子化、過度な女性優遇政策、親北朝鮮(従北)市民団体の増加などが着実に進んでいる。
今年4月の選挙で国会を掌握した最大野党の共に民主党は、国民生活や国が直面する社会課題については目もくれず、あらゆる議案に反対している。過去に自分たちが出し、反対された議案を与党が出してきても反対する始末だ。
結局、政府与党が任命する政府機関の人事は数カ月間空席のまま。省庁を麻痺寸前に追い込んでいる。
現在、報道されているだけでも、共に民主党は省庁のトップから最高裁トップの大法院長まで、尹大統領の人事案を計22回を否決した。さらに、スパイ法(国家保安法)の廃止などを含め、従北親中である共に民主党に有利な多数の法律を通過させようとしている。
簡単に言えば、韓国の大統領は名ばかりで何の権限もない「裸の王様(大統領)」に転落したのだ。
もちろん、戒厳令に対して良い印象を持っている人は誰もいない。韓国には、軍事政権と独裁政権が戒厳を通じて国民を抑圧し、政界を掌握した過去がある。筆者も尹大統領の非常戒厳宣言を支持するわけではない。ただ、共に民主党が主張している尹大統領による国家転覆の試み、「親衛クーデター」などについては、しっかりと検証しなければならない。
先の大統領選挙で、韓国人が「尹錫悦」を選択した理由は非常に簡単である。