(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
泥沼状態の韓国内政
韓国国会は、12月8日未明、尹錫悦大統領の「非常戒厳」宣言を受けて提出されていた大統領への弾劾決議案を可決できないまま閉会した。戒厳令は韓国の国民感情として受け入れ難いものであり、それを宣布した尹大統領に対しては保守系からも強い非難の声が上がっている。
一方、大統領にこうした行動をとらせた野党も国会審議を通じて内政に全く協力せず、全てを政局にするという振る舞いをしてきた。
今回の事態を招いた責任は、国民のための政治をなおざりにしてきた与野党ともにあると言わざるを得ない。
国会で大統領弾劾案を採択できなかった韓国の内政は、しばらくは泥沼状態が続くことになるだろう。
「非常戒厳」宣言による混乱と宣言の解除
尹錫悦政権は、4月の総選挙で惨敗を喫した。1院制の国会300議席のうち、与党「国民の力」が獲得したのは108議席に過ぎず、最大野党「共に民主党」は170議席、その他が22議席である。
この総選挙後、尹錫悦大統領はそれまでの独善的な政策を改め、共に民主党の李在明代表と2者会談を行うなど若干の歩み寄りの姿勢を見せたが、李在明氏に対する検察の捜査や同氏を被告人とする裁判は続いていた。
そのため、これに対抗して共に民主党は、政府の閣僚に対する不信任決議案を乱発し、来年度予算案を承認しなかった。また、野党が推す法案は次々と議決されたが、これに政府は大統領の拒否権で対抗するしかなかった。一方、野党は政府提出の法案を否決し続けた。結局、尹大統領の政権運営はにっちもさっちもいかない状況になっていた。
こうした内政の閉塞状況を打開すべく打った手が今回の「非常戒厳」の宣言だったのである。