高市総裁と立憲・野田佳彦との戦いで中道票はどこに行く?

 他方で、茂木敏充さんや石破茂さんなど、他陣営も応援する国会議員や地方議員が一般的な政治活動の一環として(総裁選の告知ではなく)、各候補を応援している事実を支持者に伝える目的でリーフレットやはがきを発送しています。

 正直、総裁選で行われる事前活動や選挙活動と、通常業務として各議員が実施する政治活動がごっちゃになり過ぎていて、カネのかからない総裁選を標榜した結果、方針の通達をガン無視して選挙にカネをちゃんとかけた陣営だけが浮上する、という残念な構造になりつつあります(茂木敏充陣営を除く)。

 あくまで総裁選を戦う各候補者の「陣営」が党員さん向けに政策主張など広報資料を送るのと、各候補者を支える各議員が政治活動として、立場を説明する目的で自身の選挙区の皆さんや後援会の加入者に送るのとでは、性質が異なると言えます。

 ただでさえ難解な「べからず集」になっている公職選挙法よりも、党規則に基づく総裁選の決まりのほうが適当で、難しいというのは何だろなとは思います。

 なぜか極右になってしまった高齢のコーヒー屋オーナーさんが割といい感じの寄付をしているという話も出ているようですが、一番懸念するのは仮に総裁選の結果がどうであれ、勝っても負けても禍根を残す一戦になってしまうのではないか、ということなんですよ。

 そこには陰謀論界隈もガッツリ乗っかっていて、現在の岸田文雄以下自民党執行部には中国の手先がたくさん紛れ込んでいて、高市早苗さんの当選を妨害するよう動いているとか、平気で書いているアカウントも見受けられます。

 ある意味で「目覚め」た人に乗せられて議会襲撃まで起こさせてしまったドナルド・トランプ大統領による共和党の選挙戦術のようなもので、高市早苗さんも「同じ自民党なのだから、他の陣営を中傷しないように」と支持者に自制を求めているにもかかわらず暴走は止まらないのが気になります。

 各陣営からも、高市早苗さんの支持者はなぜあんなに意味もなく攻撃性が強いのかと嘆く声も出てきます。結果的に、党内基盤の弱い高市早苗さんが総裁選に勝利しても、支持者がイカれているので、組閣で指名されても応じない有力議員も出てきかねません。

 ある意味で、志半ばで凶弾に斃れた安倍晋三さんの幻影を高市早苗さんに見ている有権者、自民党員さんも少なくないと思うのです。

 ただ、第二次安倍政権以降の安倍さんの治世というのは安保法制など外交・安全保障ではタカ派に見せて右派の頭をよしよしと撫でてやる一方で、中道左派的な経済政策を国内でやり、うまくバランスを取るというやり方で戦後最長の政権維持を実現したクレバーな宰相であったことを忘れてはなりません。

 仮に高市早苗さんが日本憲政史初の女性総理大臣に就任したとして、確かにそれは悲願であるとも言えるのですが、急進的な保守・タカ派のスタイルで政権運営をしようとし、早期の解散総選挙に打って出たときに肝心の中道票がごっそり立憲民主党の新代表に復帰する野田佳彦さんに持っていかれる恐れはどうしてもあるでしょう。

立憲民主党の新代表に選出された野田佳彦元首相。仮に高市氏が新総裁・総理になり、急進的な保守・タカ派のスタイルで政権運営を掲げて解散に打って出た場合、中道票はどこに行くのだろうか(写真:共同通信社)立憲民主党の新代表に選出された野田佳彦元首相。仮に高市氏が新総裁・総理になり、急進的な保守・タカ派のスタイルで政権運営を掲げて解散に打って出た場合、中道票はどこに行くのだろうか(写真:共同通信社)