いきなりの低支持率でスタートした石破政権(写真:AP/アフロ)いきなりの低支持率でスタートした石破政権(写真:AP/アフロ)

(山本一郎:財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員)

 石破茂政権が成立して早々、石破茂さんが、次々と襲い掛かる過酷な現実の前に、思い描いていた空虚な「理想の政権、こだわりの政策」が酷評されてしまいました。自由民主党内野党にすぎなかったので、無責任に正論をブチかまして人気になっていた反動でしょうか。

 石破政権成立後、一発目の政権支持率を見ると、どの調査もせいぜい50%台前半の支持率で、なんというか、低い……。「次の総理に相応しいのは」というアンケートでだいたい首位にいた石破茂さんを、みんないきなり見放し過ぎです。

 ただ、石破さんが進めたがっていた安全保障関連の政策については、総理就任前に、いきなり共和党系の大手シンクタンク、ハドソン研究所に「アジア版NATOを創ろう」とか、「日米地位協定を見直して、日本の基地をアメリカに設置しよう」などの暴論を掲載してしまったため、総理就任前から敗戦処理のロジが勃発してしまいした。

 新たに総理補佐官に就任した日本の安全保障界隈のエースの一角、長島昭久さんが火消しに乗り出さないといけない惨事に陥ってしまいます。

 そもそも、石破さんご自身が安全保障と地方政策には詳しいとの自認があるからでしょうか、論功行賞で閣僚に安保政策を語れる元防衛大臣の岩屋毅さんをなぜか外務大臣に置き、人柄はとても良いけど頭はイマイチ悪いと評判の、同じく元防衛大臣の中谷元さんを防衛大臣に就ける人事を敢行していました。

 官邸にも長島さんがおられますので、僕のやりたい防衛政策を推進する体制を作るという含意があったのは明らかでしょう。

肝いりのアジア版NATOにインドから即否定の声

 これらの「意味の分からない石破茂の防衛プラン」は、今回外交・安全保障担当の内閣官房参与として官邸入りした川上高司さんが石破さんに吹き込んだものと見られます(※山本注:参与就任時に川上さんに質問状を送付していますが、期日までに折り返しはありませんでした)。

アジア版NATOの創設か!-自衛隊の海外展開ー 川上高司 中央大学講師|(note)
外交安保参与に川上高司氏 石破氏ブレーン官邸入り(共同通信/Yahooニュース)

 当然、アジア版NATOについては、いきなりインド外相から即否定の声明が出ました。日米の安全保障クラスタでも、「お前のところの総理、なんでこんな与太話を言うんや」「いや、お前のところの大統領候補もトランプさんやんけ」と応酬が繰り広げられる惨状となっています。

 これは、単純に評判が悪い、早く政策を引っ込めろという話ではありません。いままでどこかの国を想定して防衛構想をブチ上げることを慎重に避けてきた安倍晋三・菅義偉・岸田文雄三代の外交方針を、総理就任前に石破茂さんが思い込みでブチ壊したことになりますので、石破茂さんご自慢の政策だった安全保障関係はしめやかに撤回となります。

 実際、10月4日の所信表明演説では、突然、世界にブチ上げた外交構想を撤回して従前の日本の外交方針に回帰。何事も無かったかのようにFOIP(自由で開かれたインド太平洋)に触れています。

 内政関係でも当初の石破さんの「正論」とは異なる内容が国会にて語られたため、野党からも容赦ない野次が飛ぶ一方、石破さんなりに最低限の方針変更は可能な柔軟さを見せたという点ではギリギリ良かったねといったところでしょうか。