性的暴行事件で滋賀医大生2人に逆転無罪判決を出した大阪高裁(写真:共同通信社)
性的暴行事件で滋賀医大生2人に逆転無罪判決を出した大阪高裁(写真:共同通信社)

(山本一郎:財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員)

 一昨年、滋賀医大生ら3人が女子大学生に集団で性的暴行し、動画を撮影したかどで強制性交罪に問われた事件がありました。一審で有罪判決が出た2人につき、控訴審判決で逆転「無罪」が言い渡されたことで、ネット上では騒ぎとなっております。

 もっとも、現在分かっているのは一部報道においてのみで、判決文は公開されていません。つまり、無罪判決を一転して下した高裁の裁判官3人が、どのような証拠に対し、どんな認定を下して無罪としたのかは分かっていません。

 それなのに、ネットではレイプ犯を無罪にするとは何事だという騒動が発生し、そのような判決を下した裁判官は訴追して職務から降ろせという署名活動まで勃発しています。

 落ち着けよ。

 騒いでいる人の中にはNHK連続テレビ小説『虎に翼』の脚本家・吉田恵里香さんまで混ざっております。何してんだよ。公式には、かのドラマは「日本史上初めて法曹の世界に飛び込んだ、一人の女性の実話に基づく」という触れ込みだったのに、この人は三審制や司法の独立性、推定無罪の原則も知らない人だったのかという批判まで飛び出しております。

 本件については、「判決に納得いかない」という意見を表明するところまでは、まあそうかな、と思わないでもありません。

 ただ今回、大津地裁で一審有罪とされた2人のうち片方は、レイプが起きた場所にはいたものの、何もせず帰宅したのちにレイプが発生したと認定されているようです。にもかかわらず、一審では有罪判決(29歳の男性に懲役2年6月)を受けており、「帰ってるのに有罪かよ」と界隈が大変ザワついたことを思い出します。もっとも、有罪とした一審地裁判決も、証拠が開示されているわけでもありませんので、裁判官が何をどう認定したのかは外部からは不明です。

 報道でも、飯島健太郎裁判長は「(レイプを受けたとする)女子学生は自身に不利な行動を隠す供述をしていたのに大津地裁はこれに充分な検討をせず、証言は信用できるとしたのは不合理である」と指摘しています。検察側の証拠の詰めが甘かったのかもしれませんが、不利な行動を女性側が隠していたと認定されての無罪というのは興味深いところです。

 結果として、一審で有罪判決を受けた「2人の行為や発言が暴行・脅迫に当たるとは認められず、女子学生の同意があった疑いを払拭できない」として逆転無罪を下した、というのが無罪判決に至った報道のほぼすべてです。