訪台してTSMCの魏哲家氏(左)と「イイネ」ポーズを取るNVIDIAのジェンスン・フアン氏(右、1月31日、写真:ロイター/アフロ)
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 1月末、世界の半導体供給網において象徴的な逆転劇が明らかになった。

 ファウンドリー(半導体受託製造)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)において、米エヌビディア(NVIDIA)が米アップルを抜き、事実上の最大顧客へと浮上した。

 この1カ月の市場の反応は、これが単なる企業の順位争いではなく、産業構造の不可逆的な転換であることを示唆している。

モバイルからAIへ、収益構造の劇的シフト

 米調査会社クリエイティブ・ストラテジーズのプリンシパルアナリスト、ベン・バジャリン氏の試算によれば、2026年のTSMCの売上高に占めるエヌビディアの割合は約22%に達し、約330億米ドル(約5兆1000億円)規模となる見通しだ。

 長年首位を維持してきたアップルは約18%(約270億米ドル)にとどまる(米CNBCの記事)。

 この逆転の背景には、「iPhone」を中心としたスマートフォン市場の成熟と、生成AIインフラ構築に向けた旺盛な需要がある。

 TSMCの直近の決算資料によれば、エヌビディアのチップを含むHPC(高性能コンピューティング)部門の売上比率は55%に達した。

 2022年の40%から大幅に上昇しており、製造ラインの主役は完全に移行した。1基当たりの価格が高く、製造工程も複雑なAIアクセラレーターが、ファウンドリーの収益を牽引する構造が定着している。

供給網の分散と地政学的リスクの管理

 この主役交代は、製造拠点の地理的な分散とも深く結びついている。

 エヌビディアのジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)は、次世代プラットフォーム「Rubin(ルービン)」の量産に向け、TSMCの3ナノメートル(nm)ラインを確保すると同時に、米国内での先端品生産を強く要望してきた。

 1月中旬には、これに呼応するように米国と台湾の間で包括的な貿易協定が合意された。TSMCは米南西部アリゾナ州での事業を大幅に拡張し、最終的に計12拠点の工場を米国で稼働させる計画を進めている。

 エヌビディアという「巨大なスケールを保証する顧客」の存在が、巨額設備投資を伴う製造拠点の米国移転を支える形となった。