AIの普及で半導体メモリーの不足が顕著になっている(Cliff SmithによるPixabayからの画像)
2026年に入り、世界のテクノロジー業界はかつてない「メモリー・ショック」の渦中にある。
生成AIブームの加速に伴い、データセンター向けのHBM(広帯域メモリー)などの需要が爆発的に増加した。
これにより、汎用品として扱われてきたメモリーチップは、各社の戦略を左右する「最重要物資」へと変貌した。
異例の価格高騰、サプライヤー主導の市場へ
香港の調査会社カウンターポイントリサーチの報告によれば、メモリー価格は2025年10~12月期に前四半期比で50%という驚異的な上昇を記録した。
この勢いは2026年に入っても衰えず、1~3月期にはさらに40~50%の上昇が見込まれている。市場は2018年のピーク時を上回る「ハイパー強気」局面に突入したという。
異常事態の背景にあるのは、AI関連企業の旺盛な需要だ。
データセンターを運営するハイパースケーラー(巨大クラウド事業者)各社は、巨額の上乗せ料金を支払ってでも在庫を確保する構えを見せている。
結果として、韓国のSKハイニックスやサムスン電子、米マイクロン・テクノロジーといったメモリー大手3社の交渉力は過去最高水準に達している。
インフラ囲い込み戦略の「物理的な壁」
今回露呈したメモリー不足は、巨大テック企業が進めてきた「物理インフラの囲い込み戦略」の副産物ともいえる。
米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)や米メタが数兆円規模の投資で構築してきた巨大データセンター群は、膨大な計算資源を必要とするからだ。
これまでAI開発の競争軸は「モデルの知能」にあったが、現在は「運用コストと安定性」へと移行している。
米アップルが米グーグルのインフラを採用したように、安定した稼働環境の確保こそがテック巨人の最優先事項となった。しかし、その足元のメモリー供給が、物理的な限界(ボトルネック)として立ち塞がっている。
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、次世代AIの要となるHBMの生産は、従来のDRAM供給を圧迫する。
マイクロンのスミット・サダナCBO(最高事業責任者)は、「HBMを1ビット分増産するごとに、DRAMの3ビット分の供給能力が失われる」と話す。
利益率の高いAI向け製品への生産シフトが、皮肉にもデジタル社会全体の基盤を揺るがす事態を招いている。