「シリコンの盾」の変容と今後の課題
これまで台湾の安全保障を支えてきた「シリコンの盾」理論は、新たな局面を迎えている。
かつてはアップルの消費者向け製品がサプライチェーン(供給網)の核であったが、現在はエヌビディアが担うAIインフラがサプライチェーンの主座を占め、世界の経済・安全保障の基盤となりつつある。
製造拠点の米国シフトは、安全保障の拠り所を物理的な工場から、米台の政治学的な関係性へと移行させている。
一方で、急速な需要拡大に伴う課題も山積している。
TSMCの魏哲家・董事長(会長)兼CEOは、2026年に同社全体で最大560億米ドル(約8兆7000億円)の設備投資を計画する一方で、将来的なAIバブルへの懸念を拭えないとしている。
加えて、米国の製造拠点における高度な技術者の不足や、米中間のハイテク覇権争いによる輸出規制の強化は、依然としてサプライチェーンのボトルネックとして残り続けている。
加速する開発サイクルと新秩序への問い
エヌビディアは、自社のGPU(画像処理半導体)に最適化した設計プロセスの刷新を進め、チップの開発サイクルを顕著に高速化している。
かつて数週間を要した設計シミュレーションを数時間に短縮し、毎年新製品を投入するための体制確立を本格化させている。このスピード感に対応できるのは、世界でもTSMC一社に限られているのが現状だ。
今後、2020年代末にかけて、TSMCの最先端製造ラインにおけるエヌビディア向けチップの占有率は、一層高まる見通しだ。
この依存関係は、AIメガトレンドを支える強力なエンジンであると同時に、特定の企業と技術への一極集中という新たなリスクもはらんでいる。
エヌビディアとTSMCが主導するAIインフラの供給体制が、持続的な経済成長と地政学的な安定を両立させられるのか。その具体的な成果と、社会基盤としての信頼性が問われる局面が続いている。
(参考・関連記事)「TSMC、米拠点を12カ所へ大幅拡張 変容する「シリコンの盾」と米台が直面する安全保障のジレンマ | JBpress (ジェイビープレス)」
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