十分にあり得る退陣論からの総辞職、再度の総裁選

 今回、自由民主党総裁選での石破茂さんへの党員・党友さんの投票傾向を見ても、非主流派として暇な時間を過ごしていた間、石破茂さんは地方を巡って有権者や党員の皆さんの声を聞いて回ったからこそ分厚い党員票を確保できたんだろうとは感じます。それはそれで凄いことです。

 ただ、地方で年金生活者の話をいくら聞いても分配を受ける側の話しか聴くことができないし、年金の一階部分しか支給のない人たちが「年間78万円の年金しかもらえない」という話しかしないでしょう。

 しかし、いま現実の日本社会で起きていることは生産力の低下と過疎化で、特に地方経済は里山資本主義どころか有効な産業がほぼないためカネをばら撒いても無駄だという状況です。

 その中で、高齢者にきちんと集住してもらい、都市部の機能を回復し、出産する医院から良い学校、まともな大学、そして地元で卒業した大学生が働ける生産性の高い職場をいかに用意するか、という政策に転換していかなければならない途上と言えます。

 石破茂さんが地方創生で掲げている予算倍増というスローガンとは裏腹に、実際に求められているのは、「食べていける地方」にリソースを集中するために、「食べていくことのできない地方」と自治体再々編をするなどして、地方経済の生産性・収益性を確保するための政策パッケージを用意することではないか、と思います。

 なお、これを政策面で担当するのは、あの総務大臣・村上誠一郎さんです。なんでこんなに大事なポジションに面白人事ブッ込んできたんでしょうね、石破茂さん。

 このままいくと自民党は公明党と共に現有勢力を維持することは困難と見られています。特に都市部を中心に石破茂さんの支持率は低く出る傾向から、大変な苦戦をする可能性が否めません。

 おそらく勝敗ラインとしては「自由民主党単独過半数を超えられるかどうか」に尽きるでしょう。総裁選の翌日に、石井啓一さんに同じく代表交代した公明党党大会で、自公での協力体制を強く宣言した石破茂さんの振る舞いは見事だったとは思います。

 ただし、勝敗ラインを割ってしまうと、いきなり政局になってしまいます。自公で過半数は見込めるものの、安定多数を目指して国民民主党や日本維新の会の与党参画も目指すとなれば、新しい連立相手に大臣ポストを用意するための内閣改造に追い込まれるだけでなく、石破茂さんの退陣論からの総辞職、再び自民党総裁選などということもあり得ます。

 もちろん、そうなれば、太平洋戦争の混乱の中で短命政権に終わった東久邇宮内閣(54日)や、セックススキャンダルで選挙に大敗し、引責辞任に追い込まれた宇野宗佑内閣(69日)よりも短命の政権になることは確実です。

 そして、仮に石破茂さんが早期退陣後に再び総裁選となると、俄然、高市早苗さんを総裁にする動きも強まるでしょう。そうなると、私たちもアメリカ人に対して、「いや、でもあなたのところの大統領はトランプさんでしたよね」と煽って顔真っ赤にさせてプルプルさせることができなくなってしまいます。

石破首相の所信表明演説を聞く高市早苗議員(写真:つのだよしお/アフロ)石破首相の所信表明演説を聞く高市早苗議員(写真:つのだよしお/アフロ)

 正直、なんで岸田文雄さんを降ろしてしまったのか。一番まともだったのに……と後悔しても既に遅く、漂流する日本政治の中、我が国の国威衰退と止まらない高齢化に直面するという最悪のケースも想定されます。

 それが国民の意志であり、民主主義的な手続きとして「これでいいのだ」となれば、それに従うしかないのでしょうが、どうにかならないものなのでしょうか……。

山本 一郎(やまもと・いちろう)
個人投資家、作家
1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し、『ネットビジネスの終わり(Voice select)』『情報革命バブルの崩壊 (文春新書)』『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』など著書多数。
Twitter:@Ichiro_leadoff
ネットビジネスの終わり』(Voice select)
情報革命バブルの崩壊』 (文春新書)
ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』(文藝春秋)