全国知事会議終了後、報道陣の取材に応じる兵庫県の斎藤元彦知事(中央)=11月25日午後、東京都内(写真:共同通信社)
拡大画像表示

衝撃の選挙結果からおよそ10日が過ぎた。そして選挙結果が確定してからも、選挙運動のあり方などについてさまざまな問題が提起されている今回の兵庫知事選挙だが、猛烈な逆風の中、斎藤元彦氏が一気に有権者の支持を取り付け、当選をもぎ取った手法は改めて評価すべきだろう。斎藤陣営はどのようにして有権者の心をつかんだのか。今回の知事選でも世論調査を実施したJX通信の米重克洋代表に選挙戦の分析を聞いた。(聞き手:JBpress編集部)

「斎藤元彦」より検索数で上回った「立花孝志」

――公示直後の時点では、斎藤元彦さんには厳しい予想が出ていました。しかし選挙期間に突入すると、あっという間に多くの支持を得て当選しました。その裏にはネットの力があったと言われていますが、そこはどう分析されていますか。

米重克洋氏(以下、米重) 選挙期間に入ると、公選法・放送法に基づく自主規制により抑制的な報道にならざるを得ない新聞・テレビが発信する情報量より、ネット上でのインフルエンサー的な人々からのネットでの発信が上回りました。2020年に行われたNHK放送文化研究所の調査では、既に人々のメディア接触の行為者率は、30代以下の世代はテレビよりもネットの方が高かったのですが、同じ現象が現在ではもっと上の年代まで来ているでしょう。長い時間、頻繁に接している伝送経路上に、斎藤さんを擁護するような大量の情報が発信された。それが世論の斎藤さんに対する評価を変える力になったと見ています。

米重克洋氏(写真:小檜山毅彦)
拡大画像表示

――新聞社やテレビ局もネットでニュースは配信していますが、むしろSNSの情報を有権者は重視したような印象です。

米重 特に今回の斎藤元彦さんの当選に大きく影響したのは、同じく選挙で立候補していた立花孝志さんによる情報発信です。

 立花さんは、「斎藤さんの応援をする、自分の当選を目指さない」ということを公言して立候補するという異例の選挙戦を展開し、特にYouTubeを効果的に使いました。

兵庫県知事選挙に無所属で立候補した「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首(写真:Pasya/アフロ)
拡大画像表示

 都知事選の際もYouTubeでの検索ボリュームを急激に増やしていった石丸さんが選挙戦終盤にかけて支持を伸ばして得票に結びつけたように、兵庫県知事選でも斎藤さんが終盤にかけて急速にYouTubeの検索ボリュームを伸ばしたのですが、それを大きく上回る検索ボリュームの伸びを示したのが立花さんでした。

 その立花さんは、斎藤さんが自分で言えないようなことや「不信任に至るまでの真相はこうだ」みたいな情報――現時点では真偽不明のものも含めて――を選挙期間中も発信していった。街頭演説でも、斎藤さんの後をついていくように、同じ場所ですぐやったりしている。

 その演説シーンやYouTubeの発信を、また別のネットユーザーがSNSで拡散していきました。そこでは立花さんは一種の、ネタ製造装置のような機能を果たしたと言えます。インフルエンサーたる立花さん自身は、自身による発信だけでなく、その言動をまた拡散する人々もいる。こうして立花さんの主張は一気に拡散してきました。

 それが選挙について有権者の関心がもっとも高まる時期に、「実は斎藤さんってこういう人だったんだ」「斎藤県政ってこういうことだったんだ」と再評価するきっかけになったんだと思います。斎藤さん本人の発信というより、斎藤さんを支援する立花さんらの存在によって、斎藤さんが支持を伸ばすという現象が起きました。