斎藤陣営自体のSNS発信は「最低限」のことだけ

――斎藤さん陣営と立花さんは、双方とも「連携」についてはなかったとしています。とすると候補者本人ではなく、立花さんのような勝手連的な人々のSNS発信により大きなうねりが出来るというのは、従来の選挙のネット戦略には見られなかった現象です。

米重 斎藤さん陣営がSNS戦略が特別長けていたとか、特にSNSの使い方が格段にうまかったということではありません。斎藤さんは、それこそ百条委員会の設置から失職に至る過程でも、カウンター的にSNSで情報を発信したり自分の立場を主張するという使い方はほとんどしていませんし、それ以前に『県産品のお土産をもらったのになぜそれをSNSで宣伝しないのか』と批判されていたくらいなので、本人もSNSが得意ではないのだと思います。斎藤さん自身「SNSはあまり好きではなかった」と吐露しているくらいです。

 目下、知事選の最中に斎藤陣営の広報を担ったとされるPR会社が話題になっていますが、実は斎藤陣営のSNS活動自体には、有権者の争点認識を変えるような大きな効果があったとは言えません。ネット選挙の鉄板戦術――ショート動画をたくさんつくって、ターゲットごとにメッセージを変えて――みたいなことはしておらず、本当にオーソドックスな最低限のことだけをやっていたという印象です。

選挙期間中、街宣車の上で演説する斎藤元彦氏(写真:アフロ)
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 ただ斎藤さん側にアドバンテージがあったとしたら、選挙前に、マスコミによる大量の批判的報道により、知名度が極めて高かったということです。

 そこに、「実は既得権益と戦ってきた知事」といったような情報が立花さんをはじめとする人々のSNSから大量に発信され、人々の印象を大きく変えていった。本人が積極的に仕掛けたという感じではなかったと思いますが、そうして一気にオセロがひっくり返るような現象が起きたのではないかと思います。

――内部告発した元県民局長が亡くなって以降、失職に至るまで、県議会やマスコミから猛烈な批判を浴びていた斎藤氏ですが、失職してすぐ、YouTubeチャンネル「ReHacQ」で長いインタビューを受けています。そこでインタビュアーの質問にひとつひとつ丁寧に自らの言葉で説明し、これまでの経緯について斎藤氏側からの見解を示しました。これも潮目が変わるきっかけになったようにも思いますが。

米重 世論調査やデータの観察をしている中では、そのReHacQのインタビューのタイミングで検索ボリュームなどのデータに目立った変化があったということはありませんが、その後、斎藤さん擁護に回るインフルエンサーやネットユーザーが斎藤さんという素材に注目するきっかけにはなった可能性はあったかも知れません。