(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年11月26日付)

ICCに訴追されたイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(9月18日国連総会で撮影、写真:ロイター/アフロ)

 首相のベンヤミン・ネタニヤフと前国防相のヨアブ・ガラントが戦争犯罪で起訴されたことは、イスラエルにとって惨事だ。

 西側の同盟関係にとっても極めて大きな問題だ。

 国際刑事裁判所(ICC)による訴追を退けようと戦うなか、イスラエルは米国で熱烈な超党派の支持を得ている。

 だが、欧州連合(EU)諸国の大半の政府と英国、オーストラリア、カナダは恐らく、ICCが発行した逮捕状を尊重するだろう。

 ネタニヤフが自国の領土に足を踏み入れたら、どれほど不本意だったとしても、こうした国は逮捕しなければならない。

 普段でさえ、米国と主要同盟国のこの分裂は非常に厄介だ。だが、最近は平時とはほど遠い。

 来年1月20日に米国大統領になるドナルド・トランプは、すでに米国の友人の利益を著しく脅かす行動を取ると誓っている。

 トランプは10~20%の関税導入を約束しており、欧州とアジアの輸出国に打撃を与えるだろう。北大西洋条約機構(NATO)に対するコミットメントも疑わしい。

 そしてロシアとの和平合意に向けたトランプの計画は欧州の安全保障を危険にさらす恐れがある。

イスラエル問題をめぐる欧米の対立

 大西洋を挟んだ新たな対立――今回はイスラエルをめぐるもの――は、西側の同盟国が何より避けたい事態だ。

 だが、これから起きることは、まさにそれだ。

 一部のイスラエル閣僚はすでに嬉々として、イスラエルが占領下にあるヨルダン川西岸とガザ地区の一部を正式に併合することをトランプ政権が認めると期待している。

 併合はEUから危険で違法だと見なされるだろう。

 トランプ政権はほぼ確実に、ICCの検察官と職員に対する制裁措置を可決しようとするだろう。

 共和党の一部では、例えば裁判所の運営資金を出している国に制裁を科すと脅すことによってICCを破壊する考えも取り沙汰されている。

 日本、ドイツ、フランス、英国の4カ国は、ICCへの資金拠出額が最も大きい国だ。

 イスラエルも米国も、イスラエルが民間人を殺害し、「戦争の手段として飢餓」を使ったとの嫌疑を含む起訴内容の詳細には踏み込もうとしない。

 その代わり、筋金入りのトランプ派の右派は、反ユダヤ主義がICCを動かしているというネタニヤフの主張を受け入れている。

 ICCがロシアのウラジーミル・プーチンやイスラム組織ハマス、数々のアフリカの指導者も起訴しているという事実は脇へ追いやられ、ICCとその欧州支援国はユダヤ人嫌いの汚名を着せられる。