(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年12月18日付)

マスク氏には間違いなく皮算用があったはずだ(10月5日ペンシルベニア州バトラーでトランプ氏の応援演説、写真:AP/アフロ)

 上げ潮がすべての巨大ヨットを持ち上げている。しかし、膨らむ資産について言えば、イーロン・マスクはまさに唯一無二の存在だ。

 ドナルド・トランプが11月5日の米大統領選で再選を果たして以来、マスクの保有資産はざっと6割拡大し、4400億ドルに達した。

 このペースが続けば、マスクは次のトランプ政権下で、余裕で1兆ドル長者になる。

 米メタ創業者のマーク・ザッカーバーグや米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスといった出遅れ組も流れに便乗している。

 2人ともトランプの大統領就任委員会に100万ドル寄付した。これは新政権に取り入る伝統的な手法だ。

 彼らの富も急増した。米国では今、史上最大の規制緩和ゲームが進行中だ。

上げ潮は小さな船も押し上げるか?

 この上げ潮は小さな船、つまりトランプに投票して大統領に返り咲かせたブルーカラーの米国人も持ち上げるだろうか。

 それがトランプが実現を約束していることだ。

 トランプがあれほど多くの労働者階級の票を獲得した大きな理由は、米国のブルーカラーがパンデミックに襲われる前に実質所得の中央値が上昇していた政権1期目を思い出していたからだ。

 だが、マクロ経済的な条件は、あれから急激に変わった。

 2017年には、トランプはゼロ金利の世界を受け継いだ。今回は金融政策の拘束服を着せられている。

 トランプ減税の更新の効果は急激に出る。米国のブルーカラーは恐らく失望させられるだろう。

 巨万の富を持つ米国人には同じことが当てはまらない。

 産業として最も熱烈にトランプを支持する人工知能(AI)、暗号資産(仮想通貨)業界に投資している向きは特にそうだ。

 政府効率化省(DOGE)というネーミングが間違った組織の共同トップとしてのマスクの利益相反の大きさは前代未聞だ。

 ローマでもなければ帝国でもなく、神聖でもなかった「神聖ローマ帝国」と同じように、DOGEは政府の省庁でもなければ、効率化が真の目的でもない。