(太田 肇:同志社大学政策学部教授)
11月17日に投開票が行われた兵庫県知事選挙は「SNS選挙」と呼ばれるほどSNSが大きな力を発揮した。それが若者の政治への関心を高め、投票率のアップに貢献したのだから評価すべき点はある。
一方で選挙中にデマが拡散されたり、候補者のX(旧Twitter)が不当に凍結されたりするなど、SNS選挙の問題点も露呈した。
従来型選挙にしてもSNS選挙にしても、選挙戦で力を発揮するのは有形無形の「同調圧力」である。今回の知事選は、ある意味で新旧の同調圧力のせめぎ合いという様相を呈した。以下、そこに焦点を当てながら選挙戦を振り返ってみよう。
日本社会にはびこっていたタテ方向の同調圧力とは?
パワハラ問題で県議会から全会一致の不信任を突きつけられ、失職にいたったとき、元知事・斎藤元彦氏の再選を予想した人がどれだけいただろうか。実際、失職直後の街頭演説ではほとんどの通行人が斎藤氏には目もくれずに通り過ぎていった。
ところが選挙戦が始まると聴衆が日ごとに倍増し、終盤になると斎藤氏の行く先々に人だかりができ、道路を埋め尽くした人たちから声援が上がるなど、アイドル顔負けの熱狂ぶりだった。それが雪崩現象を起こし、斎藤氏の大逆転勝利をもたらしたわけである。
予想を覆す大逆転勝利の背景に、SNSの存在があったことは明らかだ。斎藤氏のXフォロワーはおよそ20万人と失職時の3倍にまで急増し、斎藤氏を支持するポストには数千、数万のリツイートや「いいね」が付いた。
SNSは新たに登場したコミュニケーション・ツールだが、一方で日本社会特有の「同調圧力」が絡んでいることも見逃せない。注目すべき点は、SNSが同調圧力の形を大きく変えたことである。
わが国は組織も社会も人の入れ替わりが少なく、閉鎖的なところに特徴がある。また民族、宗教、教育などあらゆる面において、他国に比べ同質的だ。閉鎖的で同質的な組織や集団はおのずと共同体、いわゆる「ムラ社会」になりやすい。
そして共同体の中では、メンバーの間で人格的な上下関係ができ、メンバーは上位者と組織・集団の空気に従わざるを得なくなる。タテ方向の「同調圧力」が強く働くのだ。コロナ禍の「自粛」要請がそうだったように、政府も組織や社会の同調圧力をたびたび利用してきた。
そして選挙の際には派閥や業界団体、労働組合、宗教団体などの組織が、この同調圧力に頼ってきたのが現実だ。