「真実を隠蔽する既得権益の代弁者」とのレッテルを貼られたマスコミ
今回、知事選の発端となった県議会による全会一致の不信任決議では、後に本人が吐露しているように、内心は必ずしも不信任に賛成ではなかったが、所属する党派や同僚議員、それに当時の空気からやむなく不信任の票を投じた議員もいた。
そして選挙戦では、大半の既成政党が公式・非公式に斎藤氏の対立候補である稲村和美氏を支持し、連合兵庫や兵庫県職員労働組合なども稲村氏支持を表明した。
従来なら、これだけの組織から支援を受けた候補は圧倒的に有利だったはずである。現に事前の予想では、組織票を持つ稲村候補が勝つという見方が大勢だった。
ところが今回は、先に行われた東京都知事選挙で石丸伸二候補が予想外の善戦をしたことで、SNSの威力を実感した人たちが背後にいた。彼らが中心となって当初は孤立無援だった斎藤候補を支援し、SNSで大攻勢をかけたのだ。巧みだったのは従来型のタテ方向の同調圧力を逆手にとって、ヨコ方向の力へ転換したことである。
「斎藤さんは既得権者である議員や役人と闘う県民の味方」、「パワハラのぬれぎぬを着せられ、いじめられているかわいそうな斎藤さん」といった言説がSNS上で独り歩きし、「上意下達式の選挙運動」vs「草の根的な市民運動」という対立構造も作りあげられた。
そこではタテ方向の圧力が強まるほど、かえってヨコの力が強まる。選挙戦の終盤では「誹謗中傷が多い」と業を煮やした兵庫県市長会の有志22名が、稲村氏支持を表明したが、かえって火に油を注ぐ結果になったようだ。
また、かつては情報の信頼性と絶大な影響力を誇った新聞、テレビ等のマスコミも「真実を隠蔽する既得権益の代弁者」というレッテルを貼られ、発言に耳を貸されなくなった。
ではSNSが同調圧力と無縁かというと、決してそうではない。そこにはタイプの違う同調圧力が存在しているのである。