斎藤元彦氏は兵庫県知事への再選を果たした(写真:アフロ)

(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)

 兵庫県の「出直し知事選」は、パワハラ疑惑などを内部告発された問題で失職した斎藤元彦前知事が再選した。元尼崎市長で自民や立憲民主党の県議ら党派を超えて支援を受けた稲村和美氏ら無所属新人6人を破っての“圧勝”だ。厳しい選挙戦とのマスメディアの当初予想は、もろくも外れた。それは、7月の都知選における「石丸現象」や、10月の衆院選での国民民主党の大躍進に続く、「マスメディアの敗北」とも言える。

 3つの選挙に共通するのは、メディアの取材が及びづらい無党派層を中心としたSNSからのうねりだ。インターネット上で広がった斎藤氏を支持する声の多くは、今回の選挙戦を「ネット世論vsマスメディア」の“代理戦争”に見立てていた。権力を監視するはずのマスメディアが、民意から敵視される対象となっている現実が浮き彫りとなった。

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都知事選、衆院選に次ぐ「マスメディアの敗北」                  

「影響力増すネット」(朝日新聞)

「SNS『空中戦』で勢い」(読売新聞)

「SNS駆使 支援のうねり」(毎日新聞)

「SNS戦略 支持広げる」(産経新聞)

「熱狂的支持 SNS奏功」(東京新聞)

 斎藤氏が再選を果たした要因を分析した一般紙(18日付朝刊)各紙は、SNSの存在価値の大きさで見出しを打った。

 読売新聞が投票を終えた有権者を対象にした出口調査では、投票の際に最も参考にした情報として、「SNSや動画投稿サイト」をあげた人の9割が斎藤氏を支持。毎日新聞社と神戸新聞社によるインターネット調査では、10~20代の投票先の7割近くが斎藤氏だったという。共同通信の出口調査でも、斎藤氏は10~30代で稲村氏の2倍以上の支持を得たと報じられた。

 先の東京都知事選では、東京ではほぼ無名だった前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏がが2位に食い込んだ。衆院選では、国民民主党が「年収103万円の壁」の引き上げを公約に掲げて議席を大幅に増やした。これらに続く今回の兵庫県知事選の結果は、SNSに起因する若者を中心とした無党派層の票の流れが、既存のマスメディアはまったく読み切れていない、という構図を浮き彫りにした。

 マスメディアは選挙戦におけるSNS投稿を、過激で誤った内容が含まれ信ぴょう性が乏しい情報もあるとして危険性を指摘する。しかし、そのような「危ない情報」になぜ、有権者は信頼し、投票行動を決めるのだろうか。なぜ、テレビや新聞などのマスメディアの影響力は薄れているのか。

 兵庫県知事選翌日の大手新聞各社の紙面は、SNSの影響力の大きさを報じる一方、既存メディアに対する有権者、特に若者の不信を招いた根本的な要因を検証した記事は見当たらなかった。

 既存のマスメディアは、選挙報道における取材体制や記事におごりや先入観はなかったか、真摯に検証する必要がある。