(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
毎日新聞が人気アイドルグループSnow Manの渡辺翔太さんを騙ったSNSのなりすましアカウントの投稿を元にした記事を配信・削除したことで「こたつ記事」への批判が高まっている。こうした現場取材を十分にできていない状況は、近年のスポーツ報道で頻発する「垂れ流し記事」にも見られ、問題提起をしたい。
「こたつ記事」は一般に、ネット上のSNS投稿などを情報源とした記事で、取材現場に行かなくても「こたつに入ったまま書ける」ことが由来だ。他方、「垂れ流し記事」は取材現場には行くものの、選手や監督の発言を検証や背景などを十分に考察せずにネット上に「そのまま掲載する」記事と位置付けよう。
最近の具体例としては、米プロバスケットボールNBAのレイカーズに所属する八村塁選手の発言に関する報道がある。八村選手は14日(日本時間)の記者会見で、日本バスケットボール協会や日本男子代表のトム・ホーバス監督を批判した。この発言をスポーツ紙などは大きな扱いで掲載しているものの、発言の背景を解説した記事はほぼ皆無だった。
発言の音声を起こし、派手な見出しをつけて記事として出稿するだけでは、取材活動とは言えない。スポーツメディアの取材力が低下している現状が浮かび上がった。
センセーショナルに報じられた八村選手の発言
「八村、日本代表に不満」「異例の協会批判」「ホーバス監督続投に不満」──。
日本時間11月14日、センセーショナルな記事がスポーツ紙だけでなく、通信社からも、八村選手の発言に関する記事がネットなどに配信された。
多くの記事が、八村選手が同日の試合後会見で協会や男子日本代表について質問された際の発言を伝えた。
26歳の八村選手は「僕としてはあまり言いたいことじゃないんですけど」と前置きした上で、「代表としてやってきて、今まで思っていて。代表のやり方が、僕としてはうれしくないところがあって」と20歳から代表チームでプレーする自身の不満を切り出した。
「少し僕が思うには、お金の目的があるような気がする」「僕らは日本男子のトップのプレーヤーなので、男子のことを分かっている。プロとしてやっていた、プロとしてもコーチをやったことがある人に、コーチになってほしかった」「日本代表にも話した結果、彼ら(協会側)が決めたこと」
八村選手が批判した内容が「協会の強化方針」であることは明白だった。
しかし、ネット上に配信された複数のメディアの記事を確認したものの、八村選手が批判を公の場で口にせざるを得なかった背景を解説した記事はほとんどなかった。