(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
プロ野球・ロッテが、佐々木朗希投手のポスティングシステムによる米大リーグ移籍を容認した。すでに11月上旬に開催されていたメジャーの球団幹部や代理人が一堂に会するゼネラルマネジャー(GM)会議では、正式発表前にもかかわらず、最速165キロ右腕の佐々木投手の動向が注目され、日米メディアでは早くも熾烈な争奪戦の模様が伝えられている。
有力な日本人選手の早期のメジャー移籍志向が強まる中、ポスティングシステムは容認する「球団側の権利」でありながら、「現実的な移籍ルート」にもなる。一方、現行のメジャーの労使協定では、佐々木投手は年齢の問題からマイナー契約しか結べず、ロッテもわずかな譲渡金しか受け取れない。
日米の球団ビジネスの観点から“不平等”なルールの課題が浮き彫りになった。
ポスティングシステムの「25歳ルール」とは
「朗希 ポスティング」――。
日刊スポーツは11月10日の1面でこのニュースを大々的に報じた。他紙も終面などで大きく扱う記事にはメジャー移籍の背景に「25歳ルール 大金見込めず」(日刊スポ-ツ)「ロッテ折れた!!」(スポーツ報知)などの文字が並んだ。
この2つの見出しは、佐々木投手のメジャー移籍の現実を如実に表している。
ロッテが大金を見込めない「25歳ルール」とはどういうことか。
メジャー球団が25歳未満の海外選手を獲得する場合、契約金などの総額を年間500万ドル(約7億6000万円)程度に制限することが定められた労使協定ルールだ。選手は1年目からメジャー昇格が可能なものの、入団時にはマイナー契約しか結ぶことができない。
このルールは本来、メジャー球団によるキューバ選手の獲得や中南米の若手選手の“青田買い”による契約金高騰を防止するために生まれたものだ。海外選手との契約には、各球団が割り当てられたボーナスプールの中で契約金を支払うことになり、日本のプロ野球からポスティングで移籍するケースも例外ではない。
日本人選手では過去、大谷翔平選手(現ドジャース)が2017年オフに日本ハムからポスティングシステムでエンゼルスに移籍したときに「25歳ルール」の対象となり、契約金が231万5000ドル(当時約2億6000万円)と抑えられた。
昨季、オリックスからドジャースへポスティングシステムで移籍した山本由伸投手は25歳に達していたため、ルールの適用外で、12年総額3億2500万ドル(当時約465億円)の大型契約を結んだ。23歳の佐々木投手もあと2年待てば、同様以上の契約を結ぶことができる可能性が高かった。
ポスティスングシステムでは、佐々木投手と契約した球団はロッテに譲渡金を支払うことになる。現行制度では、契約金の25%と定められており、佐々木投手が最大で手にする契約金から見積もっても、3億円に満たない計算になる。
オリックスは山本投手の移籍の際、当時のレートで約72億円を手にした。ロッテからすれば、エース級の佐々木投手を手放すうえに、25歳まで2年残したタイミングで移籍を容認したことで、仮に山本投手と同等の契約金になったと仮定すると70億円近い大金を逃すことになる。