佐々木投手の移籍は“異例”、それでも容認したのはなぜ?

 佐々木投手は192センチの長身から繰り出す最速165キロの直球と鋭い変化のスライダーや高速で落ちるフォークを武器とする。岩手・大船渡高から4球団競合の末にドラフト1位でロッテに入団。球団は将来有望な右腕を「日本球界の至宝」として、1年目は登録がない中でも1軍に帯同させ、2年目以降も登板間隔を調整して、けがに細心の注意を払って起用した。

佐々木投手は2022年4月に史上最年少で完全試合を達成した(写真:共同通信社)

 3年目の22年4月には史上最年少で完全試合を達成し、23年春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では日本代表として優勝に貢献。今季は自身初となる2桁勝利(10勝5敗)をマークした。

 佐々木投手はポスティングシステムの容認を受けて、「入団してからこれまで継続的に将来的なMLB挑戦について耳を傾けていただき、今回こうして正式にポスティングを許可していただいた球団には感謝しかありません。(中略)世界一の選手になれるよう頑張ります」とコメントし、早期に容認した球団に対して感謝の言葉を綴った。

ファンに手を振る佐々木投手(写真:共同通信社)

 ロッテの容認がそれだけ異例だったことは、過去にポスティングシステムでメジャーへ移籍した17人の日本人選手の実績からもわかる。

 最年少は大谷選手で、佐々木投手と同じ23歳だが、移籍までの5年間で42勝(15敗)し、打者としても403試合に出場して48本塁打、打率0.286の成績を残し、16年にはチームのリーグ優勝と日本一にも貢献した。次に若い25歳で移籍したダルビッシュ有投手(現パドレス)、田中将大投手(現楽天)、山本投手の3人もチームのリーグ優勝、日本一に貢献しており、それぞれ93勝、99勝、70勝をマークしている。

 佐々木投手は実働4年で規定投球回に一度も達しておらず、この間にチームのリーグ優勝もない。こうした点が、メジャーの環境に適応できるかという声や、容認する球団への「貢献度」として物足りないという指摘につながっている。

 このため、入団時に早期のメジャー挑戦を認める“密約”の存在までささやかれ、スポーツニッポンの報道によれば、ロッテの松本尚樹球団本部長が「これは実際、本当にない。5年でというのは全く決めていなかった」と火消しに走る事態となった。松本球団本部長は「今までの5年間を総合的に判断し、彼の思いを尊重して容認した」と決断に至った経緯を説明した。

 選手が1軍登録日数という条件を満たして、移籍の自由を手にするフリーエージェント(FA)とは異なり、ポスティングシステムは、球団が容認の可否を決める権限を持つ。「球団の権利」と呼ばれるゆえんで、FAとは全く性質の異なるメジャー移籍の選択肢だ。

 だが、近年はポスティングシステムによる移籍を事実上容認していないソフトバンク以外の球団の選手にとっては、現実的なメジャー移籍のルートとなっている。