ネット重視は避けて通れないが…

 八村選手の記事については、16日のスポーツ紙で続報となる記事が確認できる。だが、日刊スポーツ、スポニチという主要なスポーツ紙ですら、協会関係者の「情報収集している」という横並びのコメントが掲載され、八村選手については、自身のX(旧ツイッター)で自身の発言を擁護したり、ホーバス監督の指導を疑問視したりする一般の投稿をリポストしている状況を伝えるにとどまった。

 八村選手がリポストしている状況から、自身の思いはメディアの報道の通りなのだろう。にもかかわらず、具体的な背景や八村選手が発言するに至った経緯について、スポーツ報道を生業とするスポーツ紙が報じられていない。一部の夕刊紙が発言の真意と題した記事を配信しているが、根拠としているのは「あるバスケットボール関係者」と心許ない。

「垂れ流し記事」も「こたつ記事」も、根源にあるのは、有名人の発言を取材の「素材」とするのではなく、そのまま記事として配信することが一般化している状況だ。スポーツ報道に限らず、政治家や経営者の発言でも多くみられる傾向で、それは取材活動の放棄でもある。

 新聞メディアは、購読者数の減少という危機的状況を少しでも改善するための苦肉の策として、ネット上の閲覧に応じた広告収入を得る仕組みの模索を続けている。取材にかける時間や手間がネットにあふれる「こたつ記事」「垂れ流し記事」と差異化するカギとなるはずだが、残念ながらその努力がネット上の閲覧数に比例するわけではない。そのため、せっかく取材現場に足を運んでも、速報性を優先して「垂れ流し記事」を配信しているのだろう。

 ネット上では、良質な記事を有料会員に提供する定額制のサブスクリプションが国内メディアにおいても徐々にではあるが浸透している。しかし、記者の取材レベルが落ちてしまっては、せっかくのビジネスモデルの転換もうまくいくはずがない。

 メディアが自ら墓穴を掘っている状況が、メディアの危機的な経営状況をより深刻化させている。

田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。