米国の次期大統領にドナルド・トランプ氏の就任が決まり、首都ワシントンでは2025年1月の政権移行に向けた動きが慌ただしくなってきました。実業家イーロン・マスク氏の登用など型破りな人事が注目を集めていますが、その足元では約4000人に上る「政治任用」スタッフの交代準備も進んでいます。政権が代われば、政府幹部の顔ぶれもガラリと変わる米国。その根幹を成す「政治任用制」とは、どのような制度なのでしょうか。やさしく解説します。
政府機関に外部人材が出入りする「回転ドア」
世界を見渡すと、政府機関の職員になるには大きく2つの枠組みがあります。1つは試験に合格し、一定の資格を得た人を採用する仕組み。これを「資格任用制」と呼びます。日本に当てはめると、国家公務員試験にパスして政府機関の職員になるという流れです。
もう1つが「政治任用制」で、任命権者である政治家が自身の考えに基づいて人選し、その職に登用します。
米国は政治任用を大規模に行う国として知られています。任命権者の大統領によって選ばれる人々は「政治任用者(political appointee)」と呼ばれ、ホワイトハウスの補佐官や幹部職員、秘書、中央省庁の主に局長級以上などが該当。全体では約4000人に上ります。
米国は民主党と共和党による典型的な二大政党制の国。今回のように政権交代が起きると、分野によっては政策が大きく変わることも珍しくありません。そのため、大統領の指示や方針を迅速・適切に伝え、その政策を的確に実行するためにこの人事制度が構築されたと解されてきました。
政治任用の仕組みは、合衆国憲法第2条「大統領の権限」第2項の規定「大統領は(略)法律によって設置される他のすべての合衆国官吏を指名し、上院の助言と承認を得て、これを任命する」(American Center Japan訳)に基づいています。
ただし、政権交代に伴って約4000人もの幹部職員がごっそり入れ替わるのは、そう簡単ではありません。事務的な引き継ぎだけでも膨大な作業量になるでしょうし、前政権の残した政策課題などを理解することも必要です。
政権交代時のそうしたトラブルを避けるため、大統領候補は投票日の前から「政権移行チーム」をつくり、当選に備えて新たな幹部人事の検討に着手します。政治空白を生まないようにするためで、前回のバイデン政権誕生時にはチームのメンバーが約500人に達しました。そうした経費は「政権移行予算」として連邦政府が負担することも法律で決まっています。
政権交代が起きると、多くの政治任用者は職を解かれ、元の仕事に戻ったり、新たなポストに転身したりします。およそ4000人もの人が政府機関と在野のポストを行ったり来たりする様子は「回転ドア(revolving door)」とも呼ばれています。