トランプ氏の「ファースト・バディ(相棒)」だというイーロン・マスク氏(写真:AP/アフロ)

米大統領選で圧勝したドナルド・トランプ氏は、2025年1月の就任に向けて新政権の人事に着手しました。重要ポストを側近で固めるなど、早くも独自色を見せています。中でも注目されるのが、トランプ氏が「世界一の金持ち」と呼ぶ企業家イーロン・マスク氏の要職起用です。新たに「政府効率化省」を立ち上げ、その共同代表に据えると表明しました。いったい、両者はどんな関係になっていくのでしょうか、やさしく解説します。

西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス

トランプ氏当選へ約2億ドルを支援

 マスク氏がトランプ氏支持を明確に打ち出したのは選挙戦さなかの2024年7月、トランプ氏が銃撃され負傷した暗殺未遂事件の後でした。マスク氏はX(旧ツイッター)で「私は全面的にトランプ大統領を支持する。けがから早く回復するよう願う」と表明しました。

 マスク氏はその後、トランプ氏の遊説に参加したり、政策立案にも加わったりするなど、トランプ陣営の一員として行動しました。選挙資金の額では民主党の候補・ハリス副大統領の陣営がリードしていましたが、マスク氏の献金により、その差は縮小しました。マスク氏はトランプ氏当選に大きな貢献を果たしたと言えるでしょう。

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 米国での報道によると、マスク氏がトランプ氏当選のために投入した額は約2億ドル(約310億円)に上るとされ、普段は投票に行かない有権者層の掘り起こしなどに力を発揮しました。選挙戦の終盤には勝敗を決すると目された激戦州で、投票に行く人に100万ドル(約1億5000万円)のプレゼントを毎日行うと表明し、話題を呼びました。地方検事が選挙違反だとして差し止めを求めましたが、裁判所は認めませんでした。

 もともとマスク氏は、連邦政府のむだを省き効率化を推進する必要性を強く訴えていました。トランプ氏は、政府効率化を第2次世界大戦時の原子爆弾製造計画になぞらえて「現代のマンハッタン計画」と呼んでその破壊力を強調。マスク氏の指導力によって、新しく立ち上げる「政府効率化省」の業務を推進する考えです。

 ただ、この組織は政府の組織なのか外部組織なのか、職員はどのように集めるのかなど、詳細は不明です。組織の名称は「Department of Government Efficiency (DOGE)」 ですが、マスク氏は仮想通貨の1つ「ドージコイン(Dogecoin)」に強い関心を示し、仮想通貨を政府効率化に使うとも言っています。「マスク氏のビジネスを支援するのがトランプ氏の意図ではないか」という指摘も出ているうえ、実際にドージコインの価値は大統領選後急伸しています。

 米政府の債務残高は35兆ドル(約5400兆円)に上っており、マスク氏は債務削減に意欲を示しています。歳出カットを進めるとともに、債務返済に仮想通貨を活用するとの見方もあります。トランプ氏は政府職員の大幅削減を断行する考えで、この背景にもマスク氏の存在があるとみられます。