マスメディアは「中立公正」を言い訳にしていないか

 今回の知事選は、斎藤氏の内部告発問題をめぐる対応が発端だった。告発者として特定された県幹部が公益通報の調査結果を待たずに懲戒処分とされ、7月に死亡した。一連の知事の対応を問題視した県議会が調査特別委員会(百条委)を設置し、疑惑を追及。9月に前回一致で不信任案が可決され、斎藤氏は失職して出直し選に臨むことになった。

 マスメディアは選挙の争点を、知事としての「資質の是非」に重きを置いた。一方、再選を目指す知事は、県立大の学費無償化など現職として取り組んだ「改革の実績」を訴えるという構造ができあがった。

 マスメディアの選挙報道では、中立公正に徹することが求められる。選挙期間中に特定の候補者を批判的に報じることができない。そのため、選挙前には斎藤氏の疑惑を厳しく追及していたメディアでも、選挙期間中は視聴者や読者からトーンダウンしたように見られかねない。

選挙戦終盤になるにつれて斎藤氏の街頭演説に集まる聴衆は増えていった(写真:アフロ)

 例えば、NHKが知事選告示日の10月31日にネットにアップした記事は「今回の選挙は、前知事がパワハラの疑いなどで告発された問題で県議会から不信任を議決され、失職したことに伴って行われます。選挙戦では、一連の問題を受けた県政の立て直しや、地域経済の活性化策などを争点に論戦が交わされる見通しです」とやや抽象的だ。

 一方、SNS上には、さまざまな意見が熱を帯びて飛び交った。63万人の登録者を持つ自らのYouTubeで、知事選に立候補しながら、斎藤氏を応援した政治団体・NHKから国民を守る党の立花孝志党首によるマスメディア批判も影響が大きかった。選挙への影響から非公開で開かれた百条委の審議内容の音声がネット上に流出し、県議会の対応も批判された。

 こうした状況を考えると、有権者が情報を求めてSNSに傾倒した要因はマスメディア側にもあったのではないか。確かに、SNSで飛び交う投稿にはエビデンス(証拠)がなく、フェイク(偽)や誤った情報が含まれる可能性もある。だが、SNSの情報に懐疑的な立場を取るだけではなく、そこに情報を求めるような視聴者や読者のニーズに応えられるような報道を、マスメディアはできていたのだろうか。「中立公正」を言い訳に、有権者が必要な情報を提供する工夫を怠ってはいなかったか。