10月の衆院選では、自民党・公明党の与党が大きく議席を減らし、国民民主党などの野党が躍進する結果となりました。SNSなどを活用した「ネット選挙」が本格化しているなか、今回の衆院選におけるネット世論は選挙結果にどんな影響を及ぼしたのか。「『ネット世論』の社会学:データ分析が解き明かす『偏り』の正体」の著者である谷原つかさ・立命館大学産業社会学部准教授に聞きました。2回に分けて掲載します。
(河端 里咲:フリーランス記者)
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40代前後に分断線、ネット世論の形成はタコツボ化
──ネット世論と既存のマスメディアに争点の違いはありましたか。
谷原つかさ・立命館大学産業社会学部准教授:日本経済新聞の記事によると、X上での投稿では自民党の「政治とカネ」の問題の書き込みが多かったと言われています。多くのマスメディアが政治とカネの問題に関する報道に多くの時間を割いていました。基本的にXの投稿はマスメディアに対するリアクションが多いので、全体でみるとマスメディアの争点と連動するのは自然な結果です。
ただX上でも本当に裏金問題が争点になっていたかというと、どうでしょう。私が調べたれいわ新選組や国民民主党のツイートを見ていると、裏金問題に言及している人は多くありませんでした。消費税、「103万円の壁」の話など具体的な政策ベースの話が多かったように感じます。
ただ、れいわ新選組や国民民主党に関するツイートは全体から見ると数が大きいわけではないので、この点は何とも言えません。
ただし、SNS上では誰しも、アルゴリズムで自分の興味のある投稿ばかりが出てくる「フィルターバブル」の中にいるので、そもそも「SNS上の争点」という形で大枠でとらえることに意味がなくなっているとも考えられます。
NHKの衆議院選挙トレンド調査によると、20〜30代はあまり裏金問題に興味がなく、景気・物価高対策や社会保障や子ども政策・少子化対策に関心を持っていることがわかります。だから今回、政治とカネをメインにせずに真っ当に経済政策を議論しようとした国民民主党が受け入れられたのだと思います。
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これらの調査からも40 代前後を境に、分断線ができていると見ています。ネットで情報を収集する20〜30代と、テレビや新聞から情報を収集する50〜60代。50〜60代はテレビなどで裏金問題を手厚く報道していたので、裏金などに興味を持っている人も多い。
接するメディアごとに見ている世界が違うパラレルワールドになっており、世論形成がタコツボ化し始めているということが言えると思います。前述の「フィルターバブル」がタコツボ化をさらに加速させています。
一方で、前回と今回で変わらない問題は依然として投票率の低さです。今回の投票率は53.85%で、前回を下回り戦後3番目に低い水準となりました。
年代別の投票率はまだわかりませんが、選挙後に私の学生たちに「自民党が大敗したことを知っているか?」と尋ねると、3〜4割しか手が挙がりませんでした。ネットで情報を得て、投票するという層が形成されてきたことは間違いありませんが、まだ若年層の多数が投票にも行っていないし、玉木さんとは? という感じだと思います。