(町田 明広:歴史学者)
坂本龍馬の陰に隠れた近藤長次郎
幕末維新期には、たくさんの人物が現れ、歴史を動かしたことによって、その名を歴史に刻みこんでいる。一方で、その人物群をつぶさに観察してみると、実は過大評価されている人物も少なくない。
また、その人物の存在によって、過小評価されたり、存在そのものが知られていない人物も少なからずいることは、多くの読者にも共感していただけるのではなかろうか。むしろ、そうした不当に評価された人物の方が、圧倒的に多いのかも知れない。今回扱う、近藤長次郎もその典型であろう。
誰もが知っている幕末史のヒーローとして、坂本龍馬の存在がある。確かに、龍馬の存在なくして幕末維新史は回転しなかったかも知れない。その龍馬の最大の功績として語られるのは、薩長同盟であることは論をまたないであろう。
確かに、龍馬の存在はなくてはならないものであるが、龍馬の功績として語られてきた活動の中で、実は近藤長次郎の功績が龍馬のそれとして、今まで語られてきたことは意外と知られていない。
今回は6回にわたって、知られざる偉人の典型的な存在として、近藤長次郎を取り上げ、中でも近藤と薩長同盟の関わりについて、特に龍馬の活動と対比しながら明らかにし、かつ、薩長融和が水泡に帰す可能性も秘めた知られざる大事件、ユニオン号事件の実相に迫ってみたい。