「やったもん勝ち」のSNS選挙をこのまま放置していいのか
周知の通りトランプ氏は1億人近いフォロワーを持つXで積極的に発信し、2億人のフォロワーを持つテスラCEOのイーロン・マスク氏も、相手候補の攻撃も含め、トランプ氏支持の発言を積極的に行った。
対するハリス陣営では、オバマ、クリントン元大統領が夫人と共にハリス氏の応援に駆けつけ、俳優で元カリフォルニア州知事のシュワルツェネッガーや、歌手のレディガガ、テイラースウィフト、ビヨンセといった大物、有名人もこぞってハリス氏支持を表明した。それでも選挙結果を左右するほどの力にはならなかった。
やはり確立された権威によるタテの力より、SNSを中心としたヨコの力の方が上回るようになったことを示している。SNSの世界ではリアルな世界のスターさえも、もはや旧体制側に位置付けられているのかもしれない。
ヨコ方向の圧力(大衆型同調圧力)は、より生活の身近なところにまで影響が及ぶ上、結果に対して誰も責任を負わないところに特徴がある。
4年前のアメリカ大統領選挙ではいわゆる陰謀論が流布し、議事堂襲撃事件まで引き起こした。今回の兵庫県知事選でも対立候補のXアカウント凍結や公職選挙法違反が疑われるような問題も次々と明るみに出ている。
SNSは今後の選挙においてもさらに利用が広がり、いっそう大きな影響力を持つようになるだろう。たとえアンフェアでも選挙が終われば「やったもん勝ち」という現状を放置してはいけない。
だからといって選挙での利用に制限を設けたり、ファクトチェックをかけたりするにも限界がある。むしろ各分野の専門家やオピニオンリーダーが第三者の立場から積極的に発言すると共に、ネット上で意見を戦わせる機会を増やすなど、「SNS住人」の関心を引く努力を続けるべきではなかろうか。
太田 肇(おおた・はじめ)
同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授。1954年、兵庫県生まれ。神戸大学大学院経営学研究科修了。京都大学博士(経済学)。日本における組織研究の第一人者として知られる。組織学会賞、経営科学文献賞、中小企業研究奨励賞 本賞などを受賞。『承認欲求』(東洋経済新報社)、『同調圧力の正体』(PHP新書)、『日本人の承認欲求』(新潮新書)、『何もしないほうが得な日本』(PHP新書)、『「自営型」で働く時代─ジョブ型雇用はもう古い!』(プレジデント社)など著書多数。