亡くなった県民局長の「プライバシー暴露」は有権者の投票行動に影響を与えたか

――立花さんは、亡くなった県民局長の内部告発は内部告発と呼べるようなものではなかった、自殺の原因は知事によるパワハラではない、また女性職員と不倫関係にあった――などといった情報を発信していました。新聞やテレビは選挙期間中は候補者の公平性に配慮するため各候補者に関する新たなネタの報道に関して抑制的になりがちになる中で、これは一般の有権者にとってインパクトがある情報だったように思います。

米重 われわれの世論調査では、何が原因で斎藤さんへの支持が増えたのかまではとらえきれない部分もありますが、立花さんに関して言えば10月の24日に出馬表明し、10月31日に告示があったわけですが、すでに10月の27〜29日あたりに検索ボリュームの大きなスパイクがあり、その後、どんどん右肩上がりで上がっていきました。

 一方、われわれが神戸新聞と合同で実施した世論調査などの結果を見てみると、失職直後には斎藤県政を評価するとしていた人が2割程度だったのですが、選挙期間中には4割以上が「評価する」に変わりました。さらに時間が経過した投開票日当日の出口調査を見ると、7割以上の人が斎藤県政を評価しているという結果が出た。

 投票に当たって重視するテーマについても、当初は「知事の資質」や、今回の文書問題に関係する話の比重が高かったのが、選挙戦中盤からは政策とか斎藤県政の継続か否かという争点に変わっていったのです。つまり選挙期間の序盤に、有権者の中で、スキャンダルが相対的に重要ではなくなった瞬間があった。

 おそらく斎藤県政の実績――県立大学の無償化や県庁舎建て替えを縮小し浮いた資金を利用して県立高校へのエアコン設置を進める――といった若者支援・Z世代支援の政策への評価も改めて高まったのだと思います。そういう「改革」をやっていた斎藤さんは既得権益を守りたい人々に潰されたんだ、というストーリーがちょうどはまって、若い世代のなかに腰を上げて投票所に行く理由が出来た。そういう側面もあったと思います。

――序盤では稲村和美さんが優勢との見方がマスコミではされていた。

米重 稲村さんは、今回は投票率が高くなったために落選という結果になりましたが、得票数で見ると、斎藤さんが前回の知事選で当選した時の票よりも多く獲得していますから、得票数が少ないとは言えません。そして今回の選挙戦でも、少なくとも中盤くらいまでは稲村さんがリードしていたと思われます。

稲村和美氏(写真:アフロ)
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