稼ぎ頭のアメリカでクルマが売れないという営業的な理由で経営危機に陥っている日産自動車。復活を果たすには日産の商品力強化やユーザーコミュニケーションの改革が急務だが、それには時間とお金がかかる。2024年3月に覚書を交わしたホンダとの提携はいまだに具体像が見えてこない。窮地に追い込まれた内田誠社長は社内と企業間に複雑にまたがる難局に対処できるか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。(JBpress編集部)
今回の危機はルノーに救済された1999年時とは全く違う
今年上半期の営業利益が前年同期比90%減という急激な業績悪化に揺れる日産自動車。利益大幅減の要因は稼ぎ頭のアメリカだ。本来アメリカで人気を獲得すべきモデルが次々と空振りし、ディーラーの値引きの原資となるインセンティブ(販売奨励金)を抑えて1台当たりの利益を高めるという日産の戦略が破綻してしまった格好だ。
この混迷で気になるのが、今年3月に日産とホンダの間で覚書が交わされた提携の行方である。
日産は1999年に仏ルノーの出資を仰いで以来、同社とアライアンスを結んできた。また2016年には三菱自動車とも資本提携を結んだ。ホンダとの新たな提携とこれら既存の提携の整合性を取るのは簡単ではないが、日産にとっては起死回生の一発を放つために何としてでもそれを実らせなければならない重要なラインという位置付けになった。
その理由は日産の経営危機の形態にある。1999年にルノーに救済された時の経営危機は巨額の有利子負債の利払いに利益が圧迫されたところに社債の格付けが投資不適格とされたことが追い討ちをかけた典型的な財務型の危機だった。
だが、今回の危機はその時とは全く異なる。財務基盤は鉄壁の強さというわけではないが、手元流動性はまだまだ潤沢。来年に巨額の社債償還期限を迎えるが、利益ゼロのままそれを処理したとしてもなお資金ショートにならないだけの余裕はある。営業利益が大減益となりながらも投資キャッシュフローは大幅なマイナスを維持していることから、緊縮型ではなく積極性を保っていることがうかがえる。