EVを生産する「アウディ」のブリュッセル工場閉鎖計画に抗議するデモ行進EVを生産する「アウディ」のブリュッセル工場閉鎖計画に抗議するデモ行進(2024年9月16日、写真:共同通信社)

 バッテリー式電気自動車(BEV)の需要の伸びが急激に鈍化、BEV推し政策に乗って巨額投資に走っていた自動車メーカーが次々に戦略の修正を迫られている。急進的なBEV転換政策を打っていた欧州でも目標を巡って分裂の様相だ。BEV不要論すら飛び出す中、果たしてBEVはどのような命運をたどることになるのだろうか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。(JBpress編集部)

>>【前編】価格、充電性、CO2排出量…今起きている停滞は商品力とは全く関係ないところで生じている

欧州のBEV転換策は“日本車つぶし説”のウソ

 欧州は2035年に乗用車のエンジン廃止をうたい、アメリカもバイデン政権がそれに追随して大々的なBEV転換策を強行した。よく“ディーゼルで失敗した欧州の日本車つぶし”という説を見かけるが、これは何のファクトもない俗説で、電動化シフトはそれよりずっと前から画策されていた。

 筆者はフォルクスワーゲンのディーゼル排出ガス不正が起こる前年の2014年、欧州で最初に企業単位でのカーボンニュートラルを達成したテキスタイルメーカー、アルカンターラがイタリアのヴェネツィアで開催した環境シンポジウムを取材している。

 フランスの電力公社EDF、著名な環境経済学者のフランク・フィッゲ教授などと並び、当時アウディの技術責任者を務めていたウーヴェ・コーザー氏がプレゼンに立った。そこで語られたのがまさに電動化。当時の常識ではこんなことが果たして可能なのかと訝るほどの内容だった。

 ところが、その時点では今のような“オール電化”の機運は微塵もなかった。コーザー氏のプレゼンはエンジンの熱効率向上、水素ガスおよびそれを原料としたe-FUEL、バイオマス等々、マルチエネルギーソリューションそのものだった。

 ちなみに2018年に若くしてこの世を去ったフィアットクライスラーの辣腕経営者セルジオ・マルキオンネCEOも死の直前まで欧州の行政を牛耳る欧州委員会に「BEVにすればCO2が減るという単純なものではない」と、エネルギーソリューションの多様化を訴えていた。