巨額の広告費で欧州メディアを支配した「環境NGO」の存在

 なぜその欧州が各国の国情やユーザーのライフスタイルを無視したオール電化をゴリ押しするような政策を取ったのか。背景には前述のヴェネツィアでのシンポジウムの中で登場した巨大な環境NGOの暗躍がある。2010年代に入った頃から資金力を急速に増した環境NGOが多数出現し、広告費の減少に苦しんでいた欧州メディアを潤沢な広告で支配した。

 そのムーブメントは2010年代後半になると一気に加速した。2017年に誕生したフランスの第一次マクロン政権では急進的な環境活動家二コラ・ユロ氏が環境大臣に抜擢された。政権基盤の弱いマクロン氏の人気取り作戦だったが、このユロ氏がエンジン廃止宣言の第1号を発した。

 その後、欧州各国は「わが国は2035年だ」「ウチは2030年だ」と、科学技術的な根拠に乏しい空想的なエンジン廃止目標を競うようになる。強力な圧力団体である環境NGOのウケ狙いだ。それを見て機は熟したと考えたのが欧州委員会である。

 欧州委員会のトップは2004年以降20年にわたって中道右派の欧州人民党が最大会派として独占してきた。その中で2019年に委員長に就任したウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は急進的な環境政策を一気に加速させた。

「新型コロナ感染症のパンデミックの際、個人の人権にやかましい欧州各国の市民に独裁的な行動制限をかけるのに成功したことで、環境規制でも行けると確信を抱いたに違いない」(欧州在住のジャーナリスト)

 欧州の自動車業界団体は欧州委員会の示すBEV化以外に策の打ちようがないという厳しい将来規制に反対し続けたが、やり過ぎて環境NGOに不買運動を仕掛けられるのは避けなければならない。結局数値や達成時期について部分的な緩和はあったものの、要望はほぼ全敗というありさまだった。