退任する日産の内田誠社長(左)と新社長のイヴァン・エスピノーサ氏(2025年3月11日)退任する日産の内田誠社長(左)と新社長のイヴァン・エスピノーサ氏(2025年3月11日のオンライン会見より、写真:共同通信社)

井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)

エスピノーサ新社長の前に立ちはだかる「数々の難題」

 経営危機に直面している日産自動車。社長交代は不可避という観測が日に日に強まる中、日産のトップ人事を決定する指名委員会は3月11日、次期社長兼CEO(最高経営責任者)に内部人材のイヴァン・エスピノーサ氏を選定したと発表した。

 エスピノーサ氏は現在46歳。CEOへの就任年齢としてはカルロス・ゴーン氏の47歳を抜き、日産史上最年少のトップだ。メキシコ日産に入社後数年で幹部となり、メキシコ、タイ、欧州などの現地法人の要職を務めた。日産本社に移籍した翌年の2018年には30代で常務執行役員に就任し、現在はCPO(チーフ・プランニング・オフィサー)、すなわち商品企画の最高責任者を務める。

 同日、指名委員会の木村康委員長、内田誠社長、エスピノーサ氏の3名がオンライン会見に出席。木村氏は指名の理由について「日産愛」を挙げた。内田氏は「エネルギッシュで自他ともに認めるカーガイ(クルマへの情熱を持つ人物)。今のこの難局を乗り越え、会社を未来へと力強くけん引してくれると期待している」と話した。

 だが、エスピノーサ次期社長の前には数々の難題が立ちはだかる。足元の経営危機からいかにして脱するか。モビリティがプラットフォームビジネス化する中、どのように他社と連携して勝ち残りに必要なグローバルでの販売スケールを手中にするのか。そして、それらを実現させるために日産社内の派閥抗争をどうやって鎮め、全社のリソースを外との戦いに振り向けるか。

 まずは経営危機からの脱却だが、道は資本注入と自力再建の2つ。1990年代後半の経営危機は財務の問題であったため、資金ショートによる倒産を回避すべくルノーの資本注入を仰いだ。

 それに対して今回の危機は商品であるクルマが売れず、営業キャッシュフローが崩壊するという営業面の問題だ。流動性にはまだいくばくかの余裕があるため、リストラをしっかりやればすぐに経営が立ち行かなくなる可能性は低い。

 その半面、多くの格付け会社が日産の社債の格付けを投資不適格に落としたことで資金調達力が低落しているという背景を考慮すると、営業収益の回復に長々と時間をかけられる余裕はない。

 ホンダから子会社化という条件を突き付けられた経営統合交渉を打ち切る判断を下したのは、日産自身が経営の自主性放棄と引き換えにしてでも資本注入を必要としておらず、かつ現在準備している新商品、新技術で営業状態の改善が期待できると考えているのだろう。

 だが、先に述べたように規模がモノを言う自動車産業のプラットフォームビジネス化への対応という中長期的視点に立てば、他社との協業は不可避だ。果たして日産にどういう再建シナリオが考えられるのだろうか。