【再建シナリオ①】ホンダとの経営統合交渉再開
第1の道はホンダとの経営統合交渉を再開することだ。両社とも次世代車の機能の中核となるコンピュータのOS、アプリケーションの開発を単独で行うのは規模的に厳しく、採算性確保も難しい。バッテリー技術を含めた電動化についてもしかりだ。
ホンダのある上級エンジニアは経営統合話が持ち上がる前、「自動車技術、生産技術に関する両社の得意分野は異なっており、かつそれらが意外に補完的。現状ではどちらも警戒感を持っているが、相互信頼が確立されて本格的な協業ができれば絶対シナジー効果を出せる」と期待感を口にしていた。技術革新競争を勝ち抜くという観点では、日産とホンダの相性は悪くない。
日本勢でプラットフォーマーの立場を確立できる可能性があるのはトヨタ自動車だが、日産とホンダという日本勢の連合が第2のプラットフォーム軸になれれば、日本の自動車産業へのプラス効果は大きいものとなるだろう。
問題は2月に決裂した経営統合交渉の後味の悪さだ。日産側にはホンダを納得させるような有効な経営改革プランを示せず、ホンダはホンダで日産への子会社化というまるで敵対的TOBのような案を突き付けるなど、メジャーブランド同士が結びつくのに不可欠なWin-Winの精神を完全に欠く交渉だった。これでは相互信頼どころか、不信のタネを植え付けたようなものだ。

一旦まかれたタネはなかったことにはできない。エスピノーサ氏は社長指名を受諾した後の会見で「日産はこんなものではない」と、内田現社長がこれまで事あるごとに発してきた内容と同じメッセージを口にした。
これは長期ビジョンである「日産アンビション2030」路線を堅持するという意思と、今年以降の商品戦略、技術戦略にそれなりに自信を抱いていることの表れだろう。ホンダとの再交渉に乗り出すにしても、子会社化のような条件は最初から突っぱねる公算が大だ。
もちろんホンダ側にも目算と意地がある。ホンダに対等もしくはそれに近い関係を築こうと思わせるにはさらなる経営改革が必要なことは言うまでもない。
現在、日産にはCEOの下にチーフ・オフィサーが9人もいる。エスピノーサ氏の現職はチーフ・プランニング・オフィサーだが、商品企画のトップではあってもクルマ作りを統括するトップではない。生産・調達、技術開発、品質と、いろいろなチーフ・オフィサーが関与する中で、それを統括する権限を持つ人物がいないのだ。
そんな権限の細分化をやっていては経営や開発のスピード感は望むべくもないし、リスクを嫌う営業や財務などから横やりを入れられやすくもなる。本来はそういう作業は取締役会がやらなければならないのだが、今回の経営の混乱で明らかになったように、その取締役会がまったくと言っていいほど改善に動こうとしなかった結果が今日のありさまなのだ。
エスピノーサ氏は社長就任でその取締役会のメンバーにもなるが、そこにはみずほ銀行出身者や変革に消極的な取締役も多い。強気で知られるエスピノーサ氏は当然改革を志すだろうが、そこで多数派を形成できなければ実行できないのだ。任期が長く、かつ自動車ビジネスへの理解が浅い人材が多数派となってしまいがちな独立社外取締役を軸としたガバナンスの弱点といえる。
そんな逆境を跳ね返して日産を迅速な意思決定を行える組織に変え、これまでの紆余曲折で生じた相互不信も乗り越えるのは難事業としか言いようがないが、それを果たせればホンダとのパートナーシップを構築することも不可能ではないだろう。