【再建シナリオ③】異業種との提携

 第3の道は異業種との大型提携だ。すでに台湾の巨大電子メーカー、鴻海科技集団が関心を抱いているとの報道が相次いでいるが、いざ本気でかかれば他にも候補が見つかるものと考えられる。

鴻海精密工業(台北)鴻海精密工業(台北、写真:ロイター=共同通信社)

 自動車ビジネスのプラットフォーマー化に世界の伝統的自動車メーカーが苦心惨憺している理由のひとつに、昔の自動車工学には影も形もなかった新技術を取り入れなければ次世代のクルマを作ることができなくなっているということがある。

 競争力強化のためには技術の“手の内化”は大切なことで、異業種から機能を丸ごと買ってきてくっ付けるだけでは技術水準の面でもコストの面でも良い商品を作るのは難しい。

 ならばいっそ、ソフトウェア、データベースおよびAI、通信といった分野に強みを持つ異業種メーカーやプラットフォーマーと提携関係を築き、そこの身内となるのは悪くない手だ。電機・電子メーカーやプラットフォーマーにとって自動車メーカーは顧客であることから、そこを介して自動車メーカー同士が新たな関係を築くトリガーにもなり得るだろう。

 今後の展開次第では他の可能性も出てくる公算大だが、どの道を歩むにしても日産が成し遂げなければならないのは経営改革だ。またそれが成ったとしても、ヒットするかどうか未知数の新商品頼みの自力再建は不透明性が高い。

 経営危機のもとになった北米での販売不振の原因として、サービスやクルマの信頼性に関する顧客満足度の低下も取り沙汰されている。それらの影響度合いによってはクルマが魅力的だったとしても簡単に販売が回復しないということになる。

 ガバナンス改革を今やったとしても、その効果が出てくるのはかなり後のことで、経営危機からの立ち直りのタイムリミットはそれよりずっと前にあると考えられる。

 つまり権限が分散して責任の所在が曖昧になりやすい現体制のまま、商品、生産、品質、サービス、営業のどこにどういう拙い部分があるのかを洗い出し、実効性のある策を出せるようにオペレーションすることがエスピノーサ氏に求められているのだ。

 そんなことができるのは才能と人間力が豊かで、かつよほどの剛腕の持ち主といったカリスマ経営者クラスだろう。エスピノーサ氏はそれを成し遂げて伝説の経営者となるか、それとも改革と経営再建の二正面作戦という無謀なチャレンジにあえなく敗れるドン・キホーテとなるのか──。

日産の新社長に就任するエスピノーサ氏日産の新社長に就任するエスピノーサ氏はどこまで豪腕を発揮できるか(写真:共同通信社)

【井元康一郎(いもと・こういちろう)】
1967年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、経済誌記者を経て独立。自然科学、宇宙航空、自動車、エネルギー、重工業、映画、楽器、音楽などの分野を取材するジャーナリスト。著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。